アストロスケール(186A)を規律で測る——「赤字縮小」の正体と、300億円CBが意味するもの

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宇宙ゴミ除去の旗手。掲示板は「強く買いたい」が7割を超え、首相が外国元首と視察するほどの“国策”銘柄。だが熱狂の温度と、規律で測った時の距離は別物だ。結論から置く。

軌道上サービス(On-Orbit Servicing)専業創業 2013年/東証グロース上場 2024年6月無配・9期連続赤字見通し

結 論この規律では「見送り」

アストロスケールの重心(Schwerpunkt)は、株価でも国策テーマでもない。「軌道上サービスが、補助金で回す“実証フェーズ”の事業から、自前で稼ぐ“商業リカーリング収益”の事業へ転化できるか」——ここ一点だ。それが抜けない限り、実証段階の企業にグロース株の倍率が乗っている状態が続く。なお、今回のCBは下方修正条項付きの“悪性MSCB”ではない。その線引きは明確にしておく。

事 業

この銘柄は何か

アストロスケールは、軌道上サービス(On-Orbit Servicing)の数少ない純粋専業(ピュアプレイ)だ。事業は4本柱——デブリ除去(ADR)、人工衛星の寿命延長(LEX)、軌道上点検、燃料補給。創業は2013年、岡田光信CEO、本社は東京・墨田区、日本・英国・米国・イスラエル(およびフランス)に拠点を構え、従業員は約480名。2024年6月に東証グロースへ上場した(186A)。

そして実証実績は本物である。主力ミッション「ADRAS-J」は、実在するデブリ(ロケットの上段)へ約15メートルまで接近し、近接撮影に成功した。これは世界初級の成果で、防衛大臣賞も受けている。次の「ADRAS-J2」では、観測にとどまらず実際の捕獲・除去の実証へ進む(2027年度打上げ予定)。英子会社が手がける「ELSA-M」はEutelsat OneWebの通信衛星の除去(独Isar Aerospaceで打上げ、2028年4月期見込み)。米子会社は静止衛星の寿命延長(LEXI-P、CDR完了)と燃料補給(米宇宙軍より受注、Orbit Fabとの契約、給油口はHondaと共同開発)を進める。

つまり、安っぽい材料株とは出自が違う。市場が期待を乗せるだけの“実体”は確かにある。問題は、その実体に対していくらまで払うか、そしてどの局面で入るかだ。

決算の質

「赤字縮小」の正体

まず表面。FY2026(26年4月期)の最終損益は▲66.9億円。前期の▲215.5億円から大幅に縮小した。掲示板の「強く買いたい」は74%、合言葉は「国策に売り無し」。だが、ここで手を止めて中身を割る。

同期の営業損益は▲99.7億円である。当期損益▲66.9億円との差、約33億円は本業の改善ではない。会社開示と報道が明示している通り、その押し上げ要因は二つ——LEXI-P衛星の製造コストの資産計上(研究開発費を損益計算書からバランスシートへ移す会計処理)と、円安に伴う金融収益(為替)だ。すなわち「縮小」の相当部分は、会計方針の変更と為替の追い風で説明がつく。

そして決定的なのは、ほかでもない会社自身のガイドだ。FY2027(27年4月期)の最終損益は▲96〜▲106億円(中央▲101億円)へ“再拡大”見通し。9期連続赤字、無配継続。粗利率はFY2026で辛うじてプラス(売上総利益+0.19億円)、つまり実質ゼロである。

規律の言葉で言えば、これは日産で「営業利益から純利益への圧縮」を読んだ時と同じ作法を、向きを変えて適用する話だ。営業赤字より当期赤字が小さいなら、その差が本業由来か(良い)、営業外・会計由来か(注意)を必ず割る。今回は後者。底入れに見えて、本業の出血は止まっていない。

損益推移(IFRS、単位:億円)

項目FY24実FY25実FY26実FY27予
売上収益約28.524.659.470〜90
プロジェクト収益
(売上+政府補助金)
115.0
営業損益▲115.6▲187.6▲99.7
最終損益▲91.8▲215.5▲66.9▲96〜▲106

※ FY26の最終赤字縮小には、LEXI-P衛星製造コストの資産計上と円安に伴う金融収益が寄与。営業赤字(▲99.7億)と最終赤字(▲66.9億)の差はおおむね本業外。受注残高は3Q時点で約411億円。FY24売上は前期比からの概算。

資本政策

300億円CBをどう読むか——MSCBではない、しかし

事実関係から。2026年5月19日、同社は約306億円(手取り約300億円)の調達を発表した。内訳は——CB263億円(海外一般募集のユーロ円建2029年満期CB 100億円+第三者割当の第1回無担保CB 163億円)に、新株43億円(252万3473株、@1,704円、ヒューリックとスカパーJSATが引受)。あわせてスカパーJSATと資本業務提携を結んだ。

まず線引き:これは“悪性MSCB”ではない

当ブログはMSCB(転換価額の下方修正条項付きCB=デススパイラル型)の発行体をカテゴリカルに排除する。だが今回はそれに該当しない。ユーロ円建CBは固定転換価額・転換プレミアム付き・利率0%の機関投資家向け(主幹事はモルガン・スタンレーとみずほインターナショナル、Reg S)。第三者割当CBは戦略投資家ヒューリック向けで、転換価額はユーロ円CBと同一。補足資料も「既存株主の即時の希薄化を回避」と設計意図を明記している。空売りで叩いて転換価額を下げる、あの悪性スキームとは別物だ。発行体の信用評価としては、ここを混同してはいけない。

しかし、警戒線には触れている

① 希薄化:即時希薄化率は最大12.08%、CB転換を含む潜在希薄化はさらに上に乗る。

② コミュニケーションの整合性:同社は上期説明会で「現預金や資本を十分に確保しており、追加的な株式調達は現時点では想定していない」と述べていた。その直後の大型調達である。“想定していない”の賞味期限は、ずいぶん短かった。

③ 構造的に連続増資体質:創業来のSeries D〜Gで累計約445億円、IPO、そして今回の306億円。本業がキャッシュを生まない以上、ロードマップを完遂するまで資本調達を繰り返す——これは経営の善悪ではなく、ビジネスモデルの宿命だ。CB依存・連続希薄化を嫌う規律からは、それだけで距離を置く理由になる。

強気論(公平に)

反対側の論点も置いておく

弱気一辺倒では、それは分析ではなくポジショントークになる。強気の材料を正面から並べる。

防衛需要は本物の追い風だ。日本の防衛費拡大、経済安全保障(経済安保のK Programに採択)、軌道上の安全保障ニーズ。会社は政府・防衛・民間の3セグメントで、2033年累計約2.5兆円の市場を想定する。受注残高は約411億円(3Q時点)と厚く、ADRAS-Jの実証実績という他社にない先行優位を持つ。

政治的な後ろ盾も大きい。2026年4月、高市総理がマクロン大統領とともに同社を視察した——「国策」テーマの象徴的な一枚だ。提携面でもスカパーJSAT(静止衛星運用)、Honda(給油口)、NorthStarなどと座を固めつつある。先行者として“世界のインフラ”を狙うストーリーには、それなりの説得力がある。

規 律

規律で測る(Schwerpunktと攻勢限界点)

バリュー規律(PBR≒1倍・配当利回り>3%・早期カタリストでの入口)で測れば、不適合は明白だ。時価総額は概算でおよそ1,600億円規模、PSRは売上収益基準で約27倍、補助金込みのプロジェクト収益基準でも約14倍。無配、9期連続赤字。バリュー銘柄の対極にある。

ではナラティブ枠か。当ブログの原則は「ナラティブ株は初動で入るか、入らないか」。その初動は——2026年5月に場中2,170円を付け、増資発表と赤字“再拡大”ガイドで急落、6月にはストップ安を挟んで1,200円割れまで戻した。宇宙株ビッグバンの最も熱い局面は、もう通過している。クルミナツィオンスプンクト(攻勢限界点)を越えた後の銘柄を、テーマだけで追いかけるのは規律違反だ。

本当の重心は、株価でも、国策の写真でもない。「軌道上サービスが、補助金で回す実証フェーズから、自前で稼ぐ商業リカーリング収益へ転化できるか」——ここ一点に尽きる。

とりわけ寿命延長(LEX)と燃料補給が、政府補助金ではなく民間顧客の反復契約として積み上がるかどうか。それが見えるまでは、実証段階の企業にグロース株の倍率が乗っている状態が続く。期待が実体を追い越している間は、規律のある資金が触れる場所ではない。

再評価のトリガー(監視指標)

  1. LEX/燃料補給の“商業”契約(補助金でなく民間反復収益)の獲得
  2. ADRAS-J2の捕獲・除去実証の成否(2027年度)
  3. プロジェクト収益に占める政府補助金比率の低下
  4. 追加調達の有無と形態——再びCB依存か、エクイティか
  5. 受注残の“質”——政府実証案件から商業案件への移行

まとめる。当ブログの規律では「見送り」。MSCBではないが連続増資・希薄化体質であり、「赤字縮小」は会計・為替の色が濃く、バリューにもナラティブの初動にも当てはまらない。テーマに張りたいのなら、勝負は入口とサイズだ。完成したナラティブを追わず、調整で需給が軽くなった局面でのみ、回復可能な範囲で——それ以上でも以下でもない。

免責:本記事は公開情報(適時開示・各種報道)に基づく筆者個人の見解であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。記載の数値・事実は執筆時点(2026年6月)のものであり、最新の開示で変動し得ます。時価総額・PSRは株価・株式数により変動する概算値です。

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