結論:再介入は十分あり得る。しかしそれは「時間を買う」だけの戦術であり、相場の方向は変えられない
先に私の見立てを置く。ドル円が162円を明確に抜け、ストップを巻き込んで急騰する局面では、政府・日銀は再び円買い介入に踏み切る可能性が高い。 だが——それは2024年や4〜5月と同じく、**数日から数週間、上値を抑えるだけの「時間稼ぎ」**に終わる公算が大きい。
なぜそう言い切れるか。理由は単純だ。今回は地合いが2024年から決定的に変わっている。 円安を生んでいる本丸(日米金利差と原油)に、介入は一切手を触れられない。介入は戦術であって、戦略ではない。私がいつも書いている通り、戦術的勝利は戦略的敗北を覆せない。 財務省は個々の小競り合いでは勝てるが、戦争そのものには負け続けている。
まず現状確認(2026年6月23日時点)
ドル円は6月22日の東京時間に161円台後半(一時161.71円前後)まで上昇し、約39年半ぶりの円安水準にある。目の前にあるのは2024年7月高値の161.95円、そしてその先の心理的節目162円だ。
足元の当局はすでに臨戦態勢に入っている。片山さつき財務相は連日「投機的な動きがあれば断固たる措置を取る」と口先介入を繰り返し、三村淳財務官のラインも市場を牽制している。市場の空気は、4月末の介入直前——財務相が「断固たる措置を取るタイミングが近づいている」、財務官が「最後の退避勧告」と踏み込んだあの局面——に酷似してきた。
4〜5月の「過去最大の介入」が、もう答えを出している
ここで重要なのは、つい先日、史上最大規模の実弾が撃たれ、そして失敗しているという事実だ。
財務省の公表によれば、4月28日〜5月27日の介入総額は11兆7,349億円。これは2024年4〜5月の約9.8兆円を2兆円上回り、月間ベースで過去最大を更新した。4月30日に160円台後半から155円接近まで、6円弱の円高を演出した。
だが結果はどうだったか。5月末には159円台へ戻り、6月にはあっさり160円を回復し、今や162円が視野に入っている。 11.7兆円という巨弾をもってしても、トレンドは1カ月ともたずに復元した。
これが介入の本質だ。日本の為替市場の1日の取引高は約69兆円、世界全体では1日約9.6兆ドル。介入規模はこの需給の前では小さく、相場の「方向」を変える力はない。 介入は「時間を買う」政策であり、買った時間の間に環境(中東・金利差)が好転することに賭ける——それ以上でも以下でもない。
なぜ今回は「より効きにくい」のか——2つのレジーム転換
私が「再介入はあっても効かない」と見る根拠は、2024年から相場の構造が2点で反転したことにある。
① FRBが「利下げ」から「利上げ」へ転換した
これが最大の論点だ。2024年の円高シナリオは「FRBが利下げ→日銀が利上げ→日米金利差が縮小→円高」という一本道に乗っていた。この前提が、今や完全に崩れている。
直近のFOMCは予想以上にタカ派だった。ドットチャートは「年内利下げ1回」から「年内利上げ1回」へ反転し、年内2回の利上げを見込むメンバーも複数。市場(OIS)では9月利上げが約9割、7月利上げも約4割が織り込まれている。背景は米インフレの再加速(5月PCEは4%台への伸び加速見込み)と原油高だ。
つまり日米金利差は「縮小」どころか「再拡大」している。 円安の本丸であるこの金利差に、円買い介入は何の影響も与えられない。むしろ介入で一時的に作った円高は、金利差を狙ったキャリー勢の格好の押し目買い場になる。
② 「ドル全面高」の中での介入は無駄打ちになりやすい
4〜5月の介入が一定の効果を見せたのは、当時がドルインデックスの軟化を伴う「ドル売り・円売り」の地合いだったからだ。ところが今は、市場のテーマが「中東リスクのドル買い」から**「米経済の底堅さによる”平時のドル買い”」へ移り、ドルインデックスとともにドル円が上昇するドル全面高**の局面にある。
ドルそのものが買われている中で円だけを買い戻しても、下げたところはすぐに買い戻される。向かい風に向かって唾を吐くようなもので、効果は限定的——市場では「無駄打ち」になりかねないとの指摘が出ている。
米国は止めない——だが、それは「効く」という意味ではない
朗報めいた話もある。米側の容認姿勢だ。1月にNY連銀がレートチェック(介入の前段階)を行い、米財務省も日本側と緊密に連絡を取っている。米国債市場の安定化の観点からも、米側は円買い介入による円安是正をむしろ歓迎する。2022年・2024年より米側の許容度は高い。
だが勘違いしてはいけない。「米国が反対しない」ことと「介入が効く」ことは別問題だ。 外部からの制約がないことは、むしろ「撃ちやすいから撃つ→効かない→また撃つ」の消耗戦を招きかねない。容認は効果を保証しない。
防衛ラインと次の節目——介入が現実味を帯びる瞬間
4月の防衛ラインは160円だった。今やその160円は突破され、**新たな主戦場は162円(=2024年高値161.95円)**に移っている。
介入が最も現実味を帯びるのは、162円を明確に上抜けてストップロスを連鎖的に巻き込み、ボラティリティが急騰する投機的な局面だ。財務省が介入の名目とするのは相場の「水準」ではなく「安定(=過度な変動の抑制)」だから、急変こそが発動条件になる。
162円を抜けた先のチャートポイントは大きく遡る必要がある。一目均衡表のN計算値は約163.66円、その先は1986年につけた163円95銭〜164円台が視野に入る。心理的節目としては162・163・164・165円が順に意識される。
では、本当に円安を止めるものは何か(=戦略レベルの解)
介入(戦術)ではトレンドは止まらない。トレンドを変え得るのは、次の3つの「戦略レベル」の変化だけだ。
- 中東情勢の収束+原油のピークアウト — 最大のスイング要因。ホルムズ海峡の航行正常化と原油安が、円安圧力と米タカ派の双方を同時に緩める
- 日銀の決定的な利上げ — ただしJGB(日本国債)市場の不安定化が足かせ。10年債利回りは既に2.5%超、年内3%の現実味すら囁かれ、急速な引き締めは困難
- FRBの利下げ復帰 — だが直前にタカ派転換したばかりで、当面期待薄
野村は2026年末のドル円見通しを147.5円→152.5円へ引き上げた。中東が収まり原油が落ち着けば150〜155円への緩やかな回帰を見込む一方、原油高が長期化すれば160円台定着のリスクも残す、という両にらみだ。
ポートフォリオへの落とし込み——「追わない」が正解
私の結論は、いつもの規律に帰着する。
第一に、この円安を追ってキャリーに乗るのは、いま最も非対称なリスクを取る行為だ。金利差再拡大で円キャリーは再び強力に回り始めているが、その巻き戻しは一瞬で来る。2024年8月、日銀の小さな一手とFRBの利下げ観測が重なった瞬間に起きたキャリー・アンワインドの暴力性を、我々はまだ覚えている。中東収束と日銀利上げが同時に来れば、162円の景色は数日で一変し得る。
第二に、だからこそゴールドとキャッシュの待機ポジション(Operation Epic Fury)はこの局面に合っている。 円安・ドル高は私の保有する米国関連エクスポージャー(SpaceX関連等)の円換算価値を押し上げてくれるが、それは「順張りで増やす理由」ではなく「反転に備えて利を確定しつつ握る理由」だ。私の鉄則——元本を回収し、残りをゼロコストで走らせる——をここでも適用する。
最後に、為替の本質を一行で。財務省は個々の介入という”会戦”には勝てる。だが日米金利差と原油という”戦略環境”を変えられない限り、戦争には勝てない。 162円の攻防で当局が何度円を押し戻そうと、本丸が動かない限り、相場は何度でも戻ってくる。介入のニュースに一喜一憂せず、見るべきは原油とFOMCのドット——そこだけだ。
(本記事は特定の為替取引や投資を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。)