結論:「隠れ供給網」への物色が、創業以来の復活劇と重なった。ただし初動はもう過ぎている
AI・半導体相場が日経平均7万円乗せで一段と過熱するなか、物色の矛先は変わりつつある。フジクラや精工技研といった派手な本命が走り切り、次に資金が向かったのは「データセンターと先端半導体を、目立たないところで支える供給網」だ。
その一角で、松脂(まつやに)を精製したロジンを源流に持つ大阪の老舗化学メーカー、荒川化学工業(4968・東証プライム)が動いた。株価は4月27日の年初来安値1,191円から、6月15日には1,904円。約7週間で6割高である。途中、東証プライムの値上がり率ランキング上位に顔を出す場面もあった。
地味なBtoB素材メーカーがこれだけ買われた理由は、同社が抱える「隠れた成長エンジン」と、創業以来初の連続赤字からの完全復活が、AI相場のタイミングと重なったことにある。結論を先に言えば、トレンドは本物だが、株価はすでに初動を過ぎた。ここからは「残り何合目か」を見極める局面だ。
なぜ「松脂の会社」がAI相場で買われるのか
荒川化学は4つの事業セグメントを持つが、相場が注目しているのはファインエレクトロニクス事業である。ここが手がけるのは、
- 光硬化型樹脂 … 電子部品の製造に使われる高機能樹脂
- 半導体先端材料用ファインケミカル … 先端半導体の製造工程向けの高純度薬剤
- ハードディスク用精密研磨剤 … データセンターの大容量ストレージを支える消耗材
- データセンター向け関連材料
会社の説明によれば、データセンター向け関連材料・先端半導体用製品の売上は過去最高水準にある。「松脂の会社」という第一印象とは裏腹に、同社はAIインフラの拡大を川上の素材から享受する立場にいる。これが、これまで割安に放置されてきた銘柄が”再発見”された核心だ。
さらに、水島工場では半導体関連の先端材料用ファインケミカルの新設備が顧客認証の段階に入っており、来年度後半からの量産化が予定されている。現在進行形の成長だけでなく、次の脚も用意されている点が、単なるテーマ買いと一線を画す。
数字が裏付ける「V字回復」
この銘柄の物語に説得力があるのは、株価の動きを業績が裏打ちしているからだ。
同社は2022・2023年度、欧州子会社の水素化石油樹脂事業の終了と半導体市況の落ち込みが重なり、創業以来初めて2期連続の赤字を計上した。そこからの戻りが鮮明になっている。
2025年度上期(2026年3月期中間)は、光硬化型樹脂・ファインケミカル・HDD研磨剤という「3本柱」の販売好調を背景に、
- 連結売上高 403.67億円(前年比+2.6%)
- 営業利益 9.29億円(前年比**+196.0%**)
- EBITDA は過去最高水準
成長分野への増産投資はほぼ一巡し、会社は「投資回収のフェーズに入りつつある」と位置づける。通期は売上高850億円・営業利益28億円の増収増益を見込む。赤字の谷から、利益が一気に立ち上がる典型的なオペレーティング・レバレッジが効き始めた局面だ。
それでも、買い上がる前に冷静に見るべき三点
ここからが、この記事を「ただの出遅れ提灯」にしないための部分である。トレンドが本物であることと、いまの株価が買い場であることは、別の問題だ。
① バリューの妙味は、すでに半分剥がれている
安値1,191円の頃、年50円配当の利回りは約4%あった。だが1,904円まで買われた現在、利回りは約2.6%まで縮んでいる。PBRは0.5倍台と低いままだが、これはROE予想3.6%という構造的に低い資本効率を映したものであり、予想PERは16.8倍。「割安に放置された株」というより、回復と隠れAI口が織り込まれ始めた株と見るのが正確だ。
② 通期計画への進捗が、やや重い
第3四半期累計の経常利益は前年同期比+76.8%と伸びた。だが通期計画に対する進捗率は69.6%で、過去5年平均の91.8%を下回っている。下期偏重の事業構造なのか、計画未達のサインなのか ― 次の決算での確認が要る。
③ 「思惑」か「実需」かは、構成比で決まる
ファインエレクトロニクスが伸びているのは事実だが、売上850億円の全体に対し、データセンター・先端半導体材料が占める構成比はどれほどか。ここが小さければ、海外で価格競争が激化する製紙・インキといった旧来事業に全体が引っ張られ、半導体ピュアプレイのような評価は続きにくい。「過去最高水準」という言葉が、全社に効くレベルの実需なのか、まだ脇役なのか ― セグメント別の売上・利益率の推移を追うことが、この銘柄の本質を見抜く鍵になる。
まとめ:トレンドは本物。問われるのは「入る位置」
荒川化学の物語は、AI相場の二段目を象徴している。派手な装置・部材から、地味だが代替の効かない川上素材へ ― 物色のすそ野が広がるなかで、創業以来の赤字を乗り越えた老舗が、データセンターと先端半導体という追い風をつかんだ。
ただし株価はすでに6割高。順張りで追うには位置が高く、狙うなら押し目。そして次の本格的な触媒は、来年度後半に控える水島工場の量産化と、それに伴うファインエレ構成比の上昇だろう。「隠れ」が「本命」に変わる瞬間は、たいてい決算のセグメント開示の中に最初に現れる。そこを先回りで読めるかどうかが、この銘柄での勝負を分ける。
※本稿は分析・情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株価・指標は執筆時点の確認に基づきます。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。