結論:出遅れには二種類ある。拾うべきは「見落とされた出遅れ」だけだ
日経平均が7万円に乗せ、イラン和平観測を燃料にAI・半導体相場が一段と過熱している。だが牽引役のフジクラ、古河、精工技研(1年で約10倍)といった本命はすでに走り切った。次の物色対象は「まだ買われていない川上素材・周辺」に移りつつある ― 昨日の大同特殊鋼の動きが、その号砲だ。
ここで投資家が分けて考えるべきは、出遅れには 「理由のある出遅れ」 と 「見落とされた出遅れ」 の二種類があるという点である。前者はAIへの寄与が薄く、正当に安い。後者はテーマに直結しているのに、業績の地味さや市場区分の小ささゆえに資金が回っていないだけだ。本稿が狙うのは後者である。
そして先に断っておく。「本命が走った→次の出遅れを掘る」という発想それ自体が、7万円局面では過熱のサインになり得る。後追いの出遅れ探しは、靴磨きの少年の寓話と紙一重だ。だからこそ、まだ初動前で基準線に張り付いているもの に絞る規律が要る。
物色の起点:日経が名指しした「隠れ半導体銘柄」
火種は明確だ。日本経済新聞が「株高をけん引する隠れ半導体銘柄」として、日本碍子(5333)と大同特殊鋼(5471)を名指しした。論点は、AI・データセンター需要の恩恵を受けながらも株価が出遅れてきた 中部(名古屋)勢の格差 である。半導体製造装置向けのセラミックス、データセンター電源向けの機能材料・磁性材料 ― いずれも「縁の下」の素材で、これまで派手なAIテーマからは外れて見られてきた。
つまり今回の相場の二段目は、「派手な装置・部材」から「地味な川上素材」への物色のスライド として読むのが筋がいい。
まず「もう走った側」を冷静に外す
出遅れを探す前に、すでに織り込まれた銘柄を外しておく。後追いで一番やられるのはここだ。
- 大同特殊鋼(5471) … 昨日動意。機能材料・磁性材料を半導体/データセンター電源向けに振る中期計画が再評価軸。すでに「隠れ」ではない。
- 日本碍子/NGK(5333) … 半導体製造装置向けセラミックスで記事の主役格。
- 日本特殊陶業/Niterra(5334) … これは走り切っている。株価は年初来高値圏(年初来レンジは概ね4,400〜10,000円台)で、証券各社の平均目標株価をすでに2割ほど上回る。点火プラグ縮小から半導体セラミックへの転換という物語は織り込み済みで、ここを追うのは典型的な高値掴みリスク。
- 日東紡(3110) … 低誘電ガラスクロス(Tガラス)で事実上の独占。最高益更新、増産投資も発表済みで、AI相場のド本命として完全に表に出た側。
これらは「強いが、もう安くない」。出遅れ探索の対象からは外す。
軸別・まだ物色されていない候補
軸1:軟磁性材料(大同特殊鋼と同じ電源インダクタの川上)
戸田工業(4100・東証スタンダード)
創業200年の弁柄屋というと地味だが、中身はソフトフェライト磁性粉、ソフト磁性メタル粉、フェライトコア ― まさに大同特殊鋼と同じ「AIサーバー電源向け軟磁性材料」の系譜だ。加えてMLCC向け誘電体材料(チタン酸バリウム)も持つ。
ポイントは、これが 「テーマは合致/業績は弱い/だから安い/だから軽い」 という典型的な出遅れ構造にあること。2026年3月期は売上高約280億円(前期比マイナス)、営業損益は黒字転換したものの最終損益は赤字。財務も自己資本比率の低下と有利子負債の増加が進む。スタンダード市場の小型株ゆえ、火がつけば値動きは速い。
裏返せば、これは「安いのが正当」の側面が濃い銘柄でもある。思惑が先行しても実需が細ければ続かない。軟磁性粉がAIサーバー電源向けにどれだけ採用されているか(売上寄与の実態) が、思惑か実需かの分水嶺になる。
軸2:ガラスコア基板(後工程の次の前線)
微細化(前工程)が物理限界に近づき、世界の視線はチップを載せる土台=ICパッケージ基板の革新に向かっている。その本丸が、有機基板に代わる ガラスコア基板(TGV) だ。
- 日本電気硝子(5214・プライム) … 株価は執筆時点で6,000円前後。昨年4月の3,000円から年初来高値7,000円台まで一度走り、そこから押した「中段」にある。ガラスコア基板でドイツ勢を追う構図が、AI半導体の大型化を背景に再評価されつつある。未発掘ではないが、ガラスコアの脚はまだ早い。押し目の性格として見る銘柄。
- TOPPAN(7911)/大日本印刷(7912) … TGVガラスコアの本命だが、いずれも大型で「軽い出遅れ低位株」とは性格が違う。値動き狙いというより本流の押さえ。
- 精密ガラス加工の低位銘柄(倉元製作所など) … ガラスコアの出遅れ・加工側として名前が挙がる。ただし市場区分・証券コード・実在は必ず端末で確認のこと(思惑色が強い小型)。
軸3:基板素材で準独占なのに株価が低迷している大型
味の素(2802)
調味料の会社という顔の裏で、AIサーバー向け半導体パッケージに不可欠な絶縁材「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」を実質独占している。AIの中核素材を握りながら、本業の調味料の減益で株価が低迷してきた ― これは「隠れ」の教科書的な事例だ。ただし時価総額が巨大でサプライズ性に乏しく、ABF単独では株価が跳ねにくい。話題性より、押し目の質を見る銘柄。
出遅れを買う前に、自分に課す三つの問い
- その出遅れは「割安放置」か「正当に安い」か。 AI寄与の実態(受注・売上寄与)が確認できないなら、それは罠かもしれない。戸田工業の軟磁性粉の採用実態、味の素ABFの利益寄与 ― ここを一次情報で詰める。
- 後追いになっていないか。 ユニチカが低誘電ガラスクロスの思惑で動いた「後」に、次のガラス・磁性を探している自分は、靴磨きの少年の側にいないか。
- 初動前か。 本命が高PERで買えない今、拾うべきは「まだ基準線に張り付き、出来高が湧いていない」もの。すでに移動平均から大きく乖離して上にあるものは、出遅れではなく過熱だ。
まとめ
7万円・AIバブル局面で本命がもう買えないなら、勝負どころは「川上素材・二番手の、理由のない出遅れ」を 初動で 拾えるかどうかにある。買えなければ見送る。ナラティブ株は初動で入れなければ追わない ― この一線を守れるかが、二段目相場で利益を残せるかどうかを分ける。
そして最後に強調したいのは、出遅れ探しの裏には常に「これは循環的な出遅れではなく、構造的な斜陽の反映ではないか」という反証が要るということだ。出遅れ銘柄の記事ほど、強気一辺倒ではなく、自分で弱気を書ける書き手のほうが信用される。
※本稿は分析・情報提供であり、特定銘柄の投資を推奨するものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任で。株価・市場区分・証券コード等は執筆時点の確認に基づくものであり、売買前に必ずご自身の端末で最新の実数をご確認ください。