イラン情勢の今後について

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直近の状況を整理した上で、想定シナリオと市場見通しを考えていきます。「エピック・フューリー作戦」の枠組みで考えてきた当初仮説と、現実の市場挙動とのギャップが見どころです。

イラン情勢の現在地

2月28日の米・イスラエルによる対イラン先制攻撃から既に2か月半。「12日間戦争」後にトランプ大統領が停戦合意を投稿したものの、ホルムズ海峡の通航停止状態は続き、5月11日時点でも「現在の停戦は『大規模な生命維持装置』に依存している」とトランプ自身が認める脆弱な状態です。 JetroTRADING ECONOMICS

注目すべきは、停戦は名目上成立しているのにホルムズ封鎖が解けていないという構造です。イランは米国に海上封鎖を終了し制裁緩和を求める一方、重要航路を通る交通に対する一定の権限を保持しようとしている—つまりホルムズ通航権を交渉カードとして握り続けている。これが当初想定の「短期収束」シナリオを崩している主因と見るべきでしょう。 TRADING ECONOMICS

今後のシナリオ分岐

短期収束派は依然多数派ですが、5月14-15日にかけてのトランプの発言(「合意か壊滅か」)を見ると、状況はむしろ硬直化の方向です。IEAは、戦闘が来月終了したとしても、石油市場は10月まで深刻な供給不足のままである可能性があると警告しており、たとえ停戦が完成しても物流正常化までのラグが想定以上に長いことが市場前提として固まりつつあります。 TRADING ECONOMICS

ここで重要な分岐点は次の3点です。

  1. ホルムズ封鎖が夏まで持続するか(6月が分水嶺)
  2. イランの核濃縮継続宣言が撤回されるか
  3. ウォーシュFRB次期議長の人事が金融政策の信頼性をどう変えるか

原油価格の見通し

現状はWTI約104ドル、ブレント約107ドル。4月7日に1barrel当たり138ドルの高値をつけ、月平均は117ドルから、いったん落ち着いた水準です。 TRADING ECONOMICSPPS

興味深いのは、原油市場で需給の法則がもはや機能していないのかという疑念が生じる状況であること。モルガン・スタンレーの最新分析によると、原油価格が過度な高騰を見せていないのは、米国と中国の石油市場が世界経済を「保護」しているためである可能性が高いとされており、米国の増産と中国の輸入減が供給混乱を一部相殺した構造です。 Tradingkey + 2

シナリオ別の想定価格帯は概ね以下のように整理できます。短期収束(6月までに封鎖解除)なら5月と6月のブレント価格は106ドル/barrel前後で推移、2026年第4四半期には平均89ドル/barrel。封鎖長期化なら130-150ドルレンジ、最悪シナリオではBofAがブレント200ドル超の可能性を警告しています。 PPSTradingkey

主観的な確率配分としては、夏越え封鎖継続が4割、秋までに段階的解除が4割、短期完全収束が2割といったところでしょうか。米中が需給ショックを吸収している構造が逆に紛争長期化を許容するという皮肉な側面もあります。

米国株:高値圏での神経質な展開

5月11日終値でダウ49,704、S&P500 7,412、ナスダック26,274と、最高値圏での調整局面です。5月6日には米国・イランが戦闘終結に向けた覚書で合意接近の報道を受け、S&P500とナスダックが2営業日連続の史上最高値更新を記録した直後だけに、現在の足踏みは「停戦合意の中身次第」という市場心理を反映しています。 KabutanNomura

ここで構造的に怖いのがインフレ再燃。米国の卸売インフレは4月に2022年以来の最速ペースに加速、消費者インフレは先月3.8%に上昇し2023年5月以来の最高値を記録しました。これを受けて投資家は今年の連邦準備制度の金利引き下げを完全に排除し、年末までにもう一度金利が引き上げられる可能性が高まる方向に織り込みが変化しています。 TRADING ECONOMICSTRADING ECONOMICS

つまり、「停戦期待で株高 → 原油下落 → インフレ鈍化 → 利下げ再開 → さらに株高」というシナリオが、停戦の硬直化で逆回転するリスクが高まっています。下値リスクとして、停戦破綻+インフレ加速で年内に二桁調整があってもおかしくない水準です。

日本株:高市トレード+企業業績+利上げのトリレンマ

日経平均は5月7日に+5.58%の62,833円で最高値更新、5月15日時点で時事通信が「秋にかけ6万8000円」とのヘッドラインを出すなど、強気色は維持されています。 NomuraJiji

ただ、構造を分解すると複雑です。2026年度期初ガイダンスを出す企業の7割弱が経常増益、4割強が増配と中東情勢への警戒は限定的で、3メガ銀の純利益が初の5兆円超え、金利上昇で過去最高—金利上昇局面の最大の受益者である銀行株の好業績が指数を支えています。 NomuraJiji

一方、4月の企業物価が4.9%上昇、中東不安で2年11カ月ぶり高水準、日銀審議委員が「早期利上げ」に言及と、利上げ加速の圧力は高まっています。短期収束シナリオなら日経平均は2026年年末~2027年初めにかけて7万円を目指す流れ、長期化なら4万6000円~5万3000円と予想レンジは広い。 Jiji + 2

私の見方としては、現在の62,000円台は「停戦楽観のフルプライス」に近く、これ以上の上値追いには停戦の実体化+ホルムズ通航再開という具体的好材料が必要です。逆に裏切られた場合の下値は、ハイテク・銀行という主導2セクターの両方が崩れるため、調整は速いと考えるべきでしょう。

金利:日米ともに「想定外のタカ派化」

FRBは4月29日のFOMCで3会合連続で利下げを見送り、パウエル議長は議長任期終了後も理事に留まると表明。ミランFRB理事が辞任、ウォーシュ次期議長就任—ウォーシュは伝統的にタカ派で、トランプの利下げ要求と政策の中立性の間で板挟みになる構図です。 NikkeiJiji

日本側は2025年12月に政策金利を0.5%から0.75%に引き上げ、1995年以来約30年ぶりの高水準、2026年1月20日には10年国債利回りが2.38%まで上昇し、1999年2月以来約27年ぶりの高い水準。市場のターミナルレート見通しは6ヵ月前の1%→3ヵ月前の1%台前半→足元の1%台後半と徐々に切り上がっています。 Money Canvas + 2

つまり、当初想定された「2026年は様子見」が崩れ、日米ともに次の動きは利上げ方向という見方が現実味を帯びてきている。これは株式バリュエーションには重しになりますが、円安にはブレーキ要因です。

金:高値圏の乱高下

2026年に入り海外市場では史上初の5,000ドル/オンスを突破、国内価格も一時3万円台を記録した後、直近は4,680-4,700ドル前後で推移。緊張長期化なら3万〜3万5,000円/gも視野に入る状況です。 Brandrevalue + 2

ここで注目すべきは、高金利は無利息資産に圧力をかける傾向があるという古典的な逆風が再び効き始めていること。インフレヘッジ需要と金利上昇圧力のせめぎ合いで、ボラティリティが極めて高い水準になっています。 TRADING ECONOMICS

総合的な見方

当初の「エピック・フューリー作戦」フレームは、戦端の開始予測としては機能しましたが、戦後処理(ホルムズ正常化)の長期化という想定外要素が加わり、市場は当初予想より複雑な動きをしています。

要点を整理すると、次のような構造です。第一に、停戦は名目成立済みだが実体(ホルムズ通航)が伴わず、市場は楽観プレミアムを既に織り込んでいる。第二に、インフレ再燃で日米金融政策がタカ派化、これは伝統的に株・金の両方に逆風。第三に、企業業績は意外と底堅く、特に日本の金利感応セクター(銀行)が指数を下支え。第四に、原油は米中の構造変化で当初想定より低位安定だが、これが逆に紛争長期化を許容する皮肉。

現在の市場プライシングが「停戦合意の早期実体化」を前提にしている以上、その前提が崩れた瞬間の調整リスクは大きい。一方で、本当に通航が再開すれば原油急落・株上昇・金下落の典型的なリスクオン展開になります。どちらに転んでも振れ幅は大きく、防御的ポジションを継続する合理性は十分にあると考えます。

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