ポストプライム:創業者大量売却で揺れる投資SNSの実態

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ポストプライム(198A)は、上場後わずか6ヶ月で株価が90%下落し、創業者・高橋ダン氏による継続的な株式売却が深刻な信頼危機を招いている。 新NISA効果で個人投資家市場が拡大する追い風の中、同社は金融・経済特化型SNSとして独自ポジションを築いたものの、「上場ゴール」との批判が絶えない。2026年5月期は売上高54.8%増を予想する一方、利益は71.6%減の見込みで、新規事業への投資負担が収益を圧迫している。


投資特化SNSという独自モデル

PostPrimeは2020年に元ウォール街トレーダー・高橋ダニエル圭(高橋ダン)氏が設立した金融・経済情報プラットフォームである。YouTubeで約50万人の登録者を持つ同氏の知名度を活かし、テキスト・画像・動画・LIVE配信に対応した投資家向けSNSを展開している。

同社の最大の特徴は「バッジシステム」と呼ばれる独自の品質評価機構だ。閲覧数、いいね数、フォロワー数などを総合的に評価し、Level 4以上に到達したユーザーのみが有料コンテンツを配信できる「プライムクリエイター」として認定される。このフィルタリング機構により、質の高い投資情報が優先表示される設計となっている。

収益構造は3本柱で構成される。プライムクリエイターの有料投稿を閲覧するための「プライム登録」(月額制、クリエイターが料金設定)、プラットフォーム自体の有料会員サービス「メンバーシップ」(月額920円〜のGreenからPlatinumまで4段階)、そしてアフィリエイト広告である。高橋ダン氏のプライム登録は月額2,800円で、同氏関連の収益は2023年5月期で売上全体の約3割を占める。


業績急変:過去最高益から赤字転落へ

PostPrimeは2024年6月20日に東証グロース市場へ上場した。公開価格450円で初値も同値となり、上場直後の7月には1,427円の高値を記録。しかしその後は一貫して下落を続け、2025年12月時点で約142円と、高値から**90%**もの暴落を記録している。

決算期売上高営業利益純利益
2024年5月期9.45億円3.51億円2.63億円(過去最高)
2025年5月期8.97億円1.83億円0.87億円
2026年5月期(予想)13.89億円0.52億円0.35億円

注目すべきは収益性の急激な悪化だ。営業利益率は2022年5月期の57%から、2026年5月期予想では3.7%へと急落している。2026年5月期第1四半期(2025年6-8月)では営業損失8,700万円を計上し、年間予想に対する進捗率はわずか12%にとどまる。

財務面では自己資本比率約80%、現金約9億円を保有し、無借金経営を維持している点は評価できる。しかしこのキャッシュポジションは、IPO時の創業者売り出しではなく、過去の事業利益の蓄積によるものである点に留意が必要だ。


創業者売却問題:「上場ゴール」批判の核心

高橋ダン氏の株式売却は、同社に対する最大の懸念材料となっている。IPO時の資金構造が極めて歪であることが批判の根源だ。

IPO時の資金配分:

  • 新株発行(会社への資金):わずか10万株、約3,000万円
  • 創業者売り出し(個人への資金):283万株、約12億円
  • 比率:会社 1 : 創業者 40

この1対40という極端な不均衡は、会社成長のための資金調達ではなく、創業者のキャッシュアウトが主目的だったとの見方を強めている。さらに問題を深刻化させたのは、上場後も継続する売却である。

2024年7月には「流動性改善」を理由に50万株(約3億円)の追加売り出しを発表。その後もほぼ毎日のように市場で売却を継続し、保有比率は上場時の約66%から、2024年12月1日時点で**48.27%まで低下。50%を下回ったことで「支配株主」の地位から外れた。2025年10月〜12月の変動報告書では、1日に0.2〜1.9%**もの売却が連日記録されている。

高橋氏はYouTubeで「PostPrimeとTakaTrade、僕は社長ではありません」と発言する一方、IRでは「引き続き代表取締役として業務執行体制を維持」と記載されており、この矛盾も投資家の不信を招いている。


競合との比較で見える弱点

日本の投資情報市場には複数の有力プレイヤーが存在し、PostPrimeは厳しい競争環境にある。

サービス特徴収益モデル強み
みんかぶ日本最大の個人投資家SNS広告+プレミアム会員規模・ブランド力
株探銘柄発掘・決算速報特化広告+プレミアム会員データ深度・速報性
Yahoo!ファイナンス総合金融情報広告中心ユーザー基盤
PostPrimeクリエイター収益化SNSサブスク中心品質管理・直接課金

PostPrimeの差別化ポイントは、バッジシステムによる品質管理とクリエイターの直接収益化だが、月額6,600円〜7万円という価格設定は、無料サービスが充実する競合と比較して明らかに割高感がある。また、みんかぶや株探が上場企業として確立されたブランドと大規模ユーザーベースを持つのに対し、PostPrimeはユーザー規模で大きく劣後している。


新事業TakaTradeへの賭け

収益悪化の主因は、新規事業「TakaTrade」への先行投資だ。2024年10月に子会社TakaTrade株式会社を設立し、2025年8月から商品CFD取引プラットフォームのサービスを開始した。SNSの情報機能と取引機能を融合させる戦略で、農林水産大臣・経済産業大臣より商品先物取引業の許可を取得している。

もう一つの成長施策が「IZANAVI」と呼ばれるAI投資パートナー機能だ。過去30年分のデータを用いた機械学習によるチャートパターン検出機能で、最上位プランPlatinumの目玉サービスとなっている。ただし、ユーザーからは「思ったほど役立っていない」との評価が多く、差別化要因として機能しているかは疑問が残る。


追い風と逆風が交錯する市場環境

日本の個人投資家市場自体は明確な成長トレンドにある。新NISA効果で2024年末時点の口座数は約2,560万口座(前年比436万口座増)に達し、年間買付額は17.4兆円と、過去10年累計の半分を1年で達成した。個人株主数も8,359万人と10年連続で過去最高を更新している。

この追い風はPostPrimeにとっても潜在的な成長機会だが、問題は同社がその恩恵を取り込めていないことだ。2025年5月期は売上高が5.1%減少しており、市場拡大にもかかわらず成長が止まっている。高橋ダン氏の継続的な株式売却が、サービスへの信頼を毀損している可能性が高い。


投資リスクの総合評価

極めて高いリスク要因:

  • 創業者の継続的売却:上場後一貫して持株を売却、投資家心理を著しく悪化
  • 上場ゴール構造:会社成長より個人利益優先と見られる資本構成
  • 業績急悪化:Q1営業損失8,700万円、年間進捗率わずか12%
  • 小型株リスク:時価総額約14億円、流動性が極めて低い
  • 創業者依存:高橋ダン氏個人への事業依存が過度

限定的な成長機会:

  • TakaTrade事業が軌道に乗れば差別化要因になりうる
  • 新NISA効果による個人投資家市場の拡大
  • ストック型収益(課金収入約8割)は安定化の可能性

アナリスト・機関投資家の状況: アナリストカバレッジは皆無で、機関投資家の保有もほぼ確認されていない。一方、野村インターナショナル、ゴールドマン・サックス、バークレイズ、モルガン・スタンレーMUFGなど複数の機関が空売りポジションを構築しており、プロ投資家からはネガティブな評価を受けている。


結論:信頼回復なき成長は困難

ポストプライムは、投資特化SNSという独自ポジションと、バッジシステムによる品質管理という優れたコンセプトを持つ。新NISA効果で個人投資家市場が拡大する中、本来であれば成長の好機にある。

しかし、創業者による継続的な株式売却という構造的問題が、そのすべてを台無しにしている。代表取締役が毎日のように自社株を売り続ける企業に、新規ユーザーが信頼を寄せることは難しい。TakaTrade事業の成長可能性はあるものの、現時点では投資負担が重く、黒字化時期は不透明だ。

投資判断としては、創業者の売却が止まり、TakaTrade事業の収益化が確認されるまで慎重な姿勢が必要である。「有名人だから」という理由での投資は危険であり、経営者の行動とファンダメンタルズを冷静に見極めることが求められる。時価総額14億円という小型株特有の流動性リスクも、ポジション構築・解消の難易度を高めている。現状は、創業者利益の最大化と株主利益が完全に乖離した典型的な「上場ゴール」案件として市場に認識されている。

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