レーザーテック:EUV検査装置の独占的王者、受注減少後の回復が焦点

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レーザーテック(6920)は、半導体製造に不可欠なEUVマスク検査装置で世界シェア100%を握る独占的地位を確立している。2025年6月期は売上高2,514億円(前年比+17.8%)、営業利益1,228億円(同+51.0%)と11期連続の最高益を達成した。しかし、受注高が前期比61.4%減の1,052億円に急減し、2026年6月期は減収減益の見通しとなっている。会社側は2026年暦年からの受注回復を見込んでおり、中長期ではHigh-NA EUV時代の本格到来が成長を再加速させる可能性がある。


業績は過去最高も受注急減が転換点に

レーザーテックの財務パフォーマンスは、過去5年間で驚異的な成長を遂げてきた。売上高は2021年6月期の702億円から2025年6月期には2,514億円へと約3.6倍に拡大。営業利益率も**48.9%**という半導体装置業界屈指の高水準を達成している。

決算期売上高営業利益営業利益率受注高
2023年6月期1,528億円623億円40.8%1,839億円
2024年6月期2,135億円814億円38.1%2,728億円
2025年6月期2,514億円1,228億円48.9%1,052億円
2026年6月期(予想)2,000億円850億円42.5%1,000〜2,700億円

転換点となったのは受注高の急減である。2025年6月期の受注高は1,052億円と前期比61.4%減少した。主力のACTIS(EUV向けマスク検査装置)で大型キャンセルが発生し、インテルやサムスンの設備投資停滞も響いた。この結果、2026年6月期は売上高2,000億円(前年比▲20.5%)、営業利益850億円(同▲30.8%)と11期ぶりの減収減益を見込んでいる。

一方、2026年6月期第1四半期(2025年7-9月)は売上高542億円(前年同期比+47.5%)、営業利益267億円(同+67.9%)と予想を大幅に上回る進捗を見せた。検収の前倒しとAI関連半導体向け需要が寄与しており、通期見通しの上振れ余地も示唆される。


EUVマスク検査で「チョークポイント」を握る競争優位性

レーザーテックの最大の強みは、EUVマスク検査装置における絶対的な独占にある。同社は以下の製品カテゴリーで世界シェア100%を維持している。

  • ACTISシリーズ(EUVパターンマスク検査):世界唯一のアクティニック検査技術
  • ABICSシリーズ(EUVマスクブランクス検査):位相欠陥を検出できる唯一の装置

この独占的地位は、10年以上にわたる国家プロジェクト(NEDO・EIDEC)での技術蓄積と、独自開発のEUV光源「URASHIMA」によって支えられている。13.5nmの極端紫外線を使った検査は技術的難易度が極めて高く、競合のKLAは開発に大幅な遅延を抱えている。

主要顧客はTSMC、インテル、サムスンの「半導体ビッグ3」に集中している。これらはASMLのEUV露光装置を導入できる世界唯一の先端ファウンドリであり、EUV露光装置1台につき1.5〜2台の検査装置が必要となる構造的な需要が存在する。

KLAとの競合比較

項目レーザーテックKLA Corporation
売上規模約2,500億円約98億ドル(8倍)
営業利益率約49%約38%
EUVアクティニック検査100%シェア(独占)開発中(大幅遅延)
DUVマスク検査90%以上シェア少
ウェーハ検査参入少50-60%シェア

KLAはR&D予算で圧倒的な規模を持つが、EUVアクティニック検査では「キセノンガス価格の高騰」「ハードウェアの問題」により開発が遅延している。業界専門家は「KLAが追いつく時間はないかもしれない」と指摘しており、少なくとも2027年までは独占継続の見通しである。


High-NA EUV時代に備える次世代製品

レーザーテックは次世代技術への対応を着実に進めている。2023年11月に発表したACTIS A300シリーズは、High-NA EUV(開口数0.55)に対応した最新機種であり、サムスンへの納入も開始された。

さらに2025年10月には、スループットを従来比3倍に向上させたACTIS A200 HiTシリーズを発表。2024年12月にはPELMISシリーズ(EUVペリクル異物検査装置)も追加し、EUVマスク検査の製品ラインナップを拡充している。

半導体の微細化ロードマップは以下の通り進展する見込みである。

時期プロセスノード対応装置
2024-2025年3nm/2nmACTIS A150(標準EUV)
2026-2027年A16(1.6nm)/A14(1.4nm)ACTIS A150/A300
2028年以降1nm以下ACTIS A300(High-NA対応)

EUVマスクの使用枚数は微細化に伴い増加する(5nmで約10数枚→3nmで約20数枚)ため、検査需要は構造的に拡大していく。EUVマスク検査装置市場は2022年の12.5億ドルから2030年には23.5億ドル(CAGR 10.5%)に成長する予測である。


バリュエーションは高収益性を反映

株価は2025年4月の52週安値10,245円から11月の高値32,800円まで約3倍の変動を見せた。現在は27,000〜29,000円前後で推移している。

指標数値評価
PER(予想)28〜43倍同業平均よりやや高い
PBR8.2〜8.3倍過去のピーク35倍から大幅低下
ROE40〜47%業界トップクラス
配当利回り1.1〜1.7%年間329円(配当性向35%目安)
時価総額約2.7兆円東京エレクトロンの約5分の1

同業他社比較

企業PER(予想)PBRROE
レーザーテック28〜43倍8.2倍40〜47%
東京エレクトロン22〜31倍5.3〜7.7倍24〜25%
アドバンテスト52〜61倍22〜27倍34〜45%
KLA Corporation30〜35倍N/A99%

ROE 40%超の高収益性を考慮すれば、現在のPBR 8倍台は過去の35倍から大幅に割安化している。ただし、受注変動リスクを織り込むと**「中立〜やや割高」との見方が妥当だろう。アナリスト目標株価は10,500円〜43,267円と大きく分散しており、平均は21,213円**である。


投資判断を左右する5つのリスク

1. 半導体サイクルへの高依存

売上の95%以上が半導体関連装置であり、顧客の設備投資計画変更が業績に直結する。装置単価が100億円超と高額なため、検収タイミングのズレで四半期業績が大きく変動する。

2. 顧客集中リスク

TSMC、インテル、サムスンの3社に売上が集中している。特にTSMCへの依存度が高く、同社の投資動向がレーザーテックの業績を左右する。

3. KLAの参入脅威

KLAがEUVアクティニック検査装置の開発を進めており、中長期的な独占維持に不確実性がある。ただし、現時点では技術先行性と特許網により、短期間でのシェア侵食は困難と評価されている。

4. 地政学リスク

2023年に日本政府がEUVマスク検査装置を輸出規制対象に指定。中国向け売上比率は15%から6%に半減した。米中対立の深化や対中規制強化が追加的な事業リスクとなる。台湾有事の際は最大顧客TSMCへの影響を通じて間接的リスクも顕在化する。

5. 空売りファンドからの攻撃

2024年6月、米空売りファンド「スコーピオン・キャピタル」が334ページの不正会計疑惑レポートを公表。レーザーテックは疑惑を明確に否定し、棚卸資産増加は受注増に伴う正常な事業拡大と説明している。空売りポジションは継続しており、株価のボラティリティを高める要因となっている。


2026年からの受注回復が投資判断の分岐点

レーザーテックへの投資判断は、2026年暦年からの受注回復が実現するかどうかにかかっている。

強気シナリオでは、TSMCのA16(1.6nm)/A14(1.4nm)投資本格化、インテル・サムスンの設備投資再開により、2027年6月期に売上2,400億円、営業利益1,100億円への回復が見込まれる。High-NA EUV対応のACTIS A300需要が加われば、2028年6月期には売上3,000億円規模も視野に入る。

弱気シナリオでは、半導体投資サイクルの長期低迷、KLAの競合製品実用化、主要顧客のEUV投資延期により、減収トレンドが長期化するリスクがある。

EUVマスク検査という「チョークポイント」を握る希少性と、営業利益率約50%の高収益性は他に類を見ない。短期的な業績変動を許容できる中長期投資家にとって、受注回復の兆しが見えた段階での投資検討は妥当といえる。一方、受注動向の不確実性とバリュエーションの高さを考慮すれば、四半期決算ごとの受注高推移を注視しながらの段階的なエントリーが現実的なアプローチだろう。


結論:独占的地位は健在、回復タイミングの見極めが鍵

レーザーテックは半導体産業の「不可欠インフラ」としての地位を確立している。EUVアクティニック検査で競合なき独占を維持し、High-NA EUV時代にも技術リーダーシップを発揮できる体制が整っている。

2025-2026年は受注減少に伴う調整局面だが、2nm以降の先端半導体投資が本格化する2027年以降は成長軌道への回帰が期待される。投資判断においては、①四半期ごとの受注高動向、②KLAの競合製品開発進捗、③主要顧客の設備投資計画、の3点を継続的にモニタリングすることが重要である。

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