出前館:赤字脱却に苦戦するフードデリバリー2位の投資分析

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出前館(証券コード:2484)は日本フードデリバリー市場で約30%のシェアを持つ国内2位企業だが、7期連続の赤字が続き、2026年8月期も8期連続の赤字見込み。 PBR 0.56倍と純資産を下回る株価水準で取引されているが、黒字化時期の不透明さと競合Uber Eatsとの差拡大が投資判断を難しくしている。財務面は自己資本比率73.7%・無借金経営で当面の資金繰りに懸念はないものの、アクティブユーザー数が2年で半減しており、事業の根本的な成長力に疑問符がつく状況だ。


事業概要:LINEヤフー傘下の老舗デリバリープラットフォーム

出前館は2000年にサービスを開始した日本発のフードデリバリーサービスであり、全国47都道府県で10万店舗以上の加盟店を持つ。収益モデルは主に2種類あり、加盟店が自前で配達する「自社配達型」(手数料率10%)と、出前館の配達員が代行する「シェアリングデリバリー」(手数料率35%)で構成される。テイクレート(取り分)は約25%となっている。

2016年からLINE(現LINEヤフー)が筆頭株主となり、2020年以降に計約1,100億円の増資を実施。現在LINEヤフーが**持株比率35.86%**で筆頭株主として、資金・技術・マーケティング面で支援している。LINEアプリからの送客、PayPayポイント連携、エンジニア派遣など、LINEヤフーグループのエコシステムを活用した事業展開が戦略の軸となっている。

2024年8月には新規事業としてLINEヤフーと共同で「Yahoo!クイックマート」(日用品・生鮮食品の即時配送)を開始し、全国43都道府県に展開したが、2025年11月にサービス終了予定と早期撤退が決定。クイックコマース事業での差別化は実現できなかった。


財務分析:赤字縮小も黒字化見通しは不透明

業績推移と赤字の構造

決算期売上高営業損益最終損益
2023年8月期514億円▲123億円▲122億円
2024年8月期504億円▲60億円▲37億円
2025年8月期397億円▲49億円▲50億円
2026年8月期予想441億円▲40億円▲40億円

売上高は2023年8月期の514億円をピークに2年連続で減収、2025年8月期は前年比21.2%減と大幅に落ち込んだ。主因はアクティブユーザー数の減少で、ピーク時の873万人から455万人へと約半減している。一方、営業赤字は2022年8月期の▲364億円から2025年8月期の▲49億円まで約7分の1に圧縮され、コスト削減は進展している。

赤字の最大要因は売上原価率の高さ(約80〜85%)にある。この大半が配達員への報酬であり、収益を稼ぐ1配達あたりのユニットエコノミクスが構造的に厳しい。2025年8月期は黒字化(営業利益100万円)を予想していたが、物価高による消費者の節約志向で注文数が想定を下回り、一転48億円の赤字に下方修正された。

キャッシュポジションと財務安全性

指標2025年8月期
現金及び預金285億円
自己資本比率73.7%
有利子負債0円(無借金)
利益剰余金▲206億円

年間約50億円のキャッシュアウトが続いているが、手元資金285億円で計算上5〜6年の運転資金を確保している。自己資本比率73.7%・無借金経営と財務健全性は高く、短期的な資金ショートリスクは低い。ただし、毎期の赤字計上により純資産は継続的に減少しており、利益剰余金は206億円のマイナスとなっている。


株価評価:純資産割れ水準だが収益力に課題

現在の株価と主要指標

指標数値
株価(2025年12月1日)144円
時価総額約162億円
52週高値/安値262円 / 137円
PBR0.56倍
PSR0.41倍
PER算出不可(赤字)
配当利回り0%(無配)

株価はピーク時(2020年末の約4,200円)から95%以上下落し、PBR 0.56倍と純資産を大きく下回る水準で推移している。2025年7月の業績下方修正発表後に急落し、11月には年初来安値137円を記録。主要証券会社によるアナリストカバレッジはなく、機関投資家からの注目度は低い。

バリュエーション面ではPSR 0.41倍と割安に見えるが、継続赤字企業のため伝統的指標での評価には限界がある。株価の回復には黒字化への明確な道筋の提示が不可欠であり、現状では投機的な位置づけとなる。


競合比較:Uber Eatsとの差が拡大

市場シェアと事業規模

サービス市場シェア加盟店数対応エリア
Uber Eats約60%12万店以上全国47都道府県
出前館約30%10万店以上全国47都道府県
Wolt約3%非公開24都道府県
menu約5%約9万店全国47都道府県

日本のフードデリバリー市場はUber Eatsと出前館の2社で約90%を占める寡占構造だが、Uber Eatsがシェアを伸ばす一方、出前館は縮小傾向にある。Uber Eatsは配達パートナー約10万人、地方展開100都市超への拡大を宣言し、クイックコマース分野でもコストコ・ローソンなど小売提携を強化している。

競争力の差異

出前館の強みは大手チェーン店との関係性LINEヤフーの顧客基盤だが、配達スピードや個人店の品揃えではUber Eatsに劣る。Woltは手数料率30%(業界最安)と高品質サポートで差別化しているが、対応エリアは24都道府県と限定的。市場全体では2022年にfoodpanda、DiDi Foodが撤退し、競争は2強+αに収斂している。

注目すべきはクイックコマース事業の明暗だ。Uber Eatsは小売提携を拡大し成長軌道に乗せている一方、出前館のYahoo!クイックマートは約1年で撤退が決定。非フード領域での差別化に失敗したことは、中長期の成長戦略にとって痛手となる。


市場環境と成長見通し

フードデリバリー市場の現状

日本のフードデリバリー市場規模は2024年時点で約7,967億円(前年比7.6%減)とコロナ特需からの調整局面にある。コロナ前(2019年)比では約90%増と定着はしているものの、外食回帰と物価高による節約志向で成長は鈍化。長期的には共働き世帯・単身世帯・高齢者世帯の増加を背景に緩やかな拡大が見込まれるが、高成長フェーズは終了した。

出前館の成長戦略

出前館は**「ユニットエコノミクスの改善」「固定費適正化」「プロダクト改善」を掲げ収益性向上に注力しているが、売上成長とコスト削減のバランス確保に苦戦している。新規事業のクイックコマースは撤退となり、LINEヤフー連携による送料無料施策やPayPayポイント付与で差別化を図るものの、抜本的な成長ドライバーは見出せていない。黒字化時期は早くても2027年以降**との見方が大勢で、当初予想から大幅に後ずれしている。


主要リスク要因

収益性改善の構造的困難

最大のリスクは高い原価率(約80%)を前提としたビジネスモデルの収益性だ。配達員報酬が収益を圧迫する構造は業界共通だが、Uber Eatsが規模の経済で黒字化に近づく一方、出前館はユーザー数減少でスケールメリットを失いつつある。アクティブユーザーの半減は深刻で、GMV(流通取引総額)の回復見通しが立たない限り、赤字脱却は困難だ。

ギグワーカー規制リスク

2025年5月に厚生労働省が「労働者」判断基準の40年ぶり見直しに着手。ギグワーカーが労働基準法上の「労働者」と認定された場合、最低賃金保証、社会保険加入、労働時間規制が義務化され、配達員コストが大幅に上昇する可能性がある。2022年には東京都労働委員会がUber Eats配達員を労働組合法上の「労働者」と認定しており、規制強化の流れは続いている。

LINEヤフー依存と市場環境

出前館の事業はLINEヤフーのエコシステムに大きく依存しており、親会社の経営方針変更・支援縮小リスクがある。LINEヤフー自体も2024年の情報漏洩問題で行政指導を受け、NAVERとの資本関係見直しを迫られている。また、2024年10月には出前館で3日間のシステム障害が発生し、オペレーションリスクも顕在化した。


結論:投資妙味は限定的、黒字化見通しが鍵

出前館はPBR 0.56倍・PSR 0.41倍と割安な水準にあるが、7期連続赤字(2026年8月期で8期連続見込み)、アクティブユーザー半減、クイックコマース撤退という現実を踏まえると、バリュエーションの割安感だけで投資判断するのは危険だ。

短期的な資金ショートリスクは低いものの、黒字化への明確な道筋が見えない中、株価の本格的な回復は期待しにくい。LINEヤフーの支援継続とギグワーカー規制の行方が今後の焦点となる。投資妙味があるとすれば、黒字化の確度が高まった段階での参入が合理的であり、現時点では様子見が妥当と考えられる。

評価項目判定コメント
収益性8期連続赤字見込み、原価率80%超
財務安全性自己資本比率73.7%、無借金
成長性×ユーザー半減、売上2年連続減収
競争力シェア2位だがUber Eatsとの差拡大
バリュエーションPBR 0.56倍と純資産割れ
総合評価黒字化確度を見極める段階
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