Google(Alphabet Inc.)事業の全貌:AI・量子・自動運転が牽引する2025年の成長戦略

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Alphabet Inc.は2024年度に売上高3,500億ドル(約52兆円)、純利益1,001億ドル(約15兆円)を達成し、過去最高の業績を記録した。 広告収入が依然として売上の約76%を占める一方、Google Cloudは前年比31%成長で430億ドル規模に拡大。AI事業はGeminiモデルを中核に全製品へ統合が進み、Waymoは週25万回以上の自動運転タクシー配車を実現、量子コンピュータ「Willow」は誤り訂正の閾値突破という歴史的成果を収めた。


Alphabetの事業構造と収益源

Alphabet Inc.は2015年10月にGoogleの組織再編により設立された持株会社で、カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置く。CEOのSundar PichaiがGoogleとAlphabet両社のトップを兼任し、創業者のLarry PageとSergey Brinはクラス B株式を通じて**議決権の51.7%**を保持している。

事業セグメント別収益(2024年度)

セグメント売上高構成比前年比成長率
Google検索・その他1,981億ドル56.6%+13.2%
Google Cloud432億ドル12.4%+30.7%
YouTube広告362億ドル10.3%+14.7%
サブスクリプション・デバイス403億ドル11.5%+16.3%
Googleネットワーク304億ドル8.7%-3.0%
Other Bets17億ドル0.5%+7.9%

広告収入は合計で2,646億ドル(売上の約76%) を占め、非広告収入は854億ドル(約24%)に達した。特筆すべきはGoogle Cloudの急成長で、2022年の9.4%から2024年には12.4%へと構成比を高めている。

Other Bets(新規事業群)の現状

「Other Bets」はWaymo、Verily(ライフサイエンス)、Wing(ドローン配送)、Calico(長寿研究)、Intrinsic(産業用ロボティクス)などの革新的事業を含む。2024年度の売上は17億ドルにとどまるが、年間40〜60億ドルの営業損失を計上しながらも将来の成長基盤として戦略的投資が継続されている。


AI事業:Geminiが牽引する「エージェント時代」

Google DeepMindの統合と研究領域

2023年4月、Google BrainとDeepMindが統合しGoogle DeepMindが誕生した。Demis HassabisがCEO、Koray KavukcuogluがCTOを務め、2024年4月にはGoogle Research内のAIモデル構築チームもDeepMind傘下に集約された。

主要な研究成果には、タンパク質構造予測でノーベル化学賞を受賞したAlphaFold、競技プログラミングAI「AlphaCode 2」(参加者の上位85%を超える性能)、そして核融合研究向けプラズマシミュレーション「TORAX」がある。ロボティクス分野では2025年3月に「Gemini Robotics」を発表し、ロボットとの自然言語対話を可能にした。

Geminiモデルの進化

GeminiはGoogleのマルチモーダルAIモデルファミリーで、2023年12月のGemini 1.0発表以降、急速に進化している。

モデル発表時期主な特徴
Gemini 1.0 Ultra/Pro/Nano2023年12月初のMLU90.0%達成(人間専門家超え)
Gemini 1.5 Pro2024年2月100万トークンコンテキスト、MoE採用
Gemini 2.0 Flash2024年12月「エージェント時代」対応、Deep Research機能
Gemini 2.5 Pro2025年3月「思考モデル」、24言語ネイティブ音声出力
Gemini 3.0 Pro2025年11月20ベンチマーク中19で最高性能、GPT-5 Proを凌駕

Gemini 3.0 Proは「Humanity’s Last Exam」で41%の正解率を達成し、GPT-5 Proの31.64%を上回った。LMArenaリーダーボードでも首位を獲得している。

製品へのAI統合

AI Overview(検索) は2024年5月に米国で本格展開され、現在は200カ国以上、40言語以上で月間10億人以上が利用。Google Workspaceでは「Help me write」(Gmail・Docs)、「Help me organize」(Sheets)などのGemini機能が統合され、70%以上のユーザーがAI支援を受け入れている

旧Bardは2024年2月に「Gemini」にリブランドされ、無料版(Gemini Pro利用可)と有料版「Google AI Pro」(月額19.99ドル)、法人向け「Gemini Enterprise」が提供されている。


TPU:AI専用プロセッサの技術的優位性

TPUの基本アーキテクチャ

TPU(Tensor Processing Unit)はGoogleがニューラルネットワーク処理専用に開発したASIC(特定用途向け集積回路) である。中核となるのはシストリックアレイと呼ばれる256×256の行列演算ユニットで、1クロックサイクルで数十万回の演算を実行できる。

GPUとの最大の違いは、汎用性を犠牲にしてテンソル演算に特化した設計を採用した点にある。メモリアクセスを最小化する設計により、消費電力あたりの演算性能が大幅に向上している。

TPU世代別スペック比較

世代発表年性能(BF16)HBM容量主な用途
TPU v42021275 TFLOPS32GB大規模学習
TPU v5e2023197 TFLOPS16GB推論・ファインチューニング
TPU v5p2023459 TFLOPS95GB大規模学習
Trillium (v6e)2024926 TFLOPS32GB汎用(v5eの4.7倍)
Ironwood (v7)20254,614 FP8 TFLOPS192GB推論特化(v6eの4倍)

2025年発表のIronwood(TPU v7) は「推論の時代」に向けた設計で、デュアルチップレット構造を採用。1ポッドあたり最大9,216チップ、42.5エクサFLOPSの演算能力を実現する。

Google CloudでのTPU提供

Google CloudではTPUを時間課金で提供しており、Trillium(v6e)は米国東部で1チップあたり2.70ドル/時間(オンデマンド)、3年契約で1.22ドル/時間まで割引される。無料のTPU Research Cloudプログラムでは研究者向けにアクセスが開放されている。

NVIDIAとの比較

比較項目Google TPUNVIDIA GPU
エコシステムJAX/TensorFlow/PyTorchCUDA(業界標準)
可用性Google Cloud専用全主要クラウドで利用可
強み大規模LLM学習のコスト効率汎用性・開発者基盤
価格性能比H100比で最大4倍(LLM学習時)柔軟性で優位

Anthropicが100万TPUの契約を締結、OpenAIもGoogle Cloudとの契約を発表するなど、NVIDIA以外の選択肢としてTPUの採用が拡大している。


Waymo:商用ロボタクシーで世界をリード

現在のサービス展開

Waymo Oneは現在5都市(フェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルス、オースティン、アトランタ) で営業運転を行い、週25万回以上の有料配車を実現している。2023年5月の週1万回から25倍に拡大した。

車両数は約2,500台で、2025年6月時点で累計9,600万マイルの完全自動運転走行を達成。2024年の有料配車は400万回を超え、売上は推定1.25億ドルに達した。

安全性データ

Waymoの安全記録は人間ドライバーを大幅に上回る。9,600万マイルの走行データに基づく分析では:

  • 重傷以上の事故:91%減少
  • エアバッグ作動事故:79%減少
  • 歩行者負傷事故:92%減少
  • 自転車負傷事故:78%減少

スイス再保険の調査(2,530万マイル分析)では、物損請求が88%減少、人身傷害請求が92%減少という結果が示されている。

競合との比較

企業技術アプローチ現状(2025年11月)
WaymoLiDAR+レーダー+カメラ5都市で商用運行、週25万回配車
Tesla FSDカメラのみ2025年6月オースティンで限定開始(安全監視員付き)
Cruise (GM)LiDAR+カメラ2024年12月事業撤退
Zoox (Amazon)専用車両サンフランシスコで無料試験運行開始
Baidu Apollo GoLiDAR+カメラ中国で四半期110万回以上の配車

Waymoは多重センサー冗長構成(13カメラ、4 LiDAR、6レーダー)を採用し、悪天候対応力でTeslaの単眼カメラ方式を凌駕する。一方、Teslaは年間500億マイルの走行データを収集できる規模の優位性を持つ。

今後の展望

2024年10月に56億ドルのシリーズC資金調達を完了(累計110億ドル以上)。2026年末までに週100万回配車、15都市以上への展開を目標としている。2025年11月には高速道路走行を開始し、マイアミ、ダラス、ヒューストンなど5都市で無人運転テストを開始した。国際展開として東京(2025年4月テスト開始)とロンドン(2026年予定)も計画されている。


量子コンピュータ:Willowチップで誤り訂正の壁を突破

Google Quantum AIの歩み

Google Quantum AIは2012年にHartmut Nevenが設立し、サンタバーバラに約300名の研究チームを擁する。2019年10月、53量子ビットのSycamoreプロセッサで「量子超越性」を達成。古典スーパーコンピュータで1万年かかる計算を200秒で完了したと発表し、世界的な注目を集めた。

Willowチップの技術的ブレークスルー

2024年12月発表のWillowチップ(105量子ビット) は2つの歴史的成果を達成した。

1. 誤り訂正の閾値突破:超伝導量子コンピュータとして初めて「閾値以下」の誤り訂正を実証。3×3→5×5→7×7グリッドとスケールアップするごとに誤り率が半減することを確認した。これは大規模量子コンピュータ実現への重要なマイルストーンとなる。

2. 超古典計算の達成:ランダム回路サンプリングを5分未満で完了。同じ計算を最速のスパコン「Frontier」で行うと**10の25乗年(10セプティリオン年)**を要するとされる。

スペックSycamore (2019)Willow (2024)
量子ビット数53105
T1コヒーレンス時間約20μs約100μs(5倍向上)
2量子ビットゲート忠実度99.4%99.88%
誤り訂正未達成閾値以下を実証

ロードマップと競合比較

Googleは6段階のロードマップを策定しており、現在第3段階(閾値以下の誤り訂正)を達成。2030年頃に大規模誤り訂正型量子コンピュータの実現を目指す。約100万物理量子ビットから数千の論理量子ビットを構築する計画で、物理/論理量子ビット比は従来の1,000:1から200:1程度に改善される見込み。

IBMは量子ビット数でリード(Condor:1,121量子ビット)するが、Googleは品質と誤り訂正で優位に立つ。IonQやQuantinuumはイオントラップ方式で長いコヒーレンス時間を実現するが、ゲート速度ではGoogleの超伝導方式が勝る。


その他主要事業:Cloud、YouTube、Android、Pixel

Google Cloud

Google Cloudは2024年度に432億ドルの売上を達成し、30%超の成長を維持。クラウド市場シェアは**11〜13%**でAWS(29〜31%)、Azure(20〜25%)に次ぐ第3位だが、成長率では首位を走る。アナリストの一部は2025年後半にAzureを逆転する可能性を指摘している。

AI/ML分野でのVertex AI、Gemini統合が差別化要因となり、顧客数は96万社以上に達した。

YouTube

YouTubeは2024年に広告収入362億ドル、サブスクリプション収入145億ドル、合計542億ドルを達成。月間アクティブユーザーは27億人以上で、YouTube Premiumの有料会員は1億〜1.25億人に達した。YouTube Shortsは1日700億回の視聴を記録している。

Android

Androidは世界のモバイルOS市場で70〜73%のシェアを維持し、ユーザー数は39億人。インドでは95%以上、ブラジル・インドネシアでは85%以上のシェアを持つ。2024年9月リリースのAndroid 15は2025年7月時点で42.87%の普及率を達成した。

Google Pixel

Pixel 9シリーズ(2024年発表)はTensor G4チップを搭載し、Gemini Nanoによるオンデバイス AI処理を実現。2025年上半期のプレミアムセグメント販売は前年比105%増と急成長している。2025年発表予定のPixel 10は、初のTSMC製造(3nmプロセス)となるTensor G5を搭載する。

Google Workspace

Google Workspaceは月間アクティブユーザー30億人以上、有料企業顧客600〜900万社を擁し、生産性ソフトウェア市場で50.34%のシェアを持つ(Microsoft 365は45.46%)。Gemini 1.5 Proの統合により、Gmail、Docs、Slides全体でAI支援機能が利用可能になった。


結論:AI中心の成長戦略と2025年の展望

Alphabet/GoogleはAI、クラウド、自動運転、量子コンピュータという4つの成長エンジンで将来を見据えている。2025年の設備投資計画は750億ドル(前年比63%増)とAIインフラへの積極投資を継続する。

Gemini 3.0の競争力強化、TPU Ironwoodの量産、Waymoの15都市展開、Willow後継チップの開発など、各領域で技術的リーダーシップの確立を目指す。広告依存からの脱却は緩やかながら着実に進み、Google Cloudの構成比上昇がその進捗を示している。

反トラスト訴訟や規制リスク、NVIDIA支配への対抗、Tesla FSDとの競争など課題は残るものの、Alphabetは技術革新と規模の経済を武器に、2025年以降も成長軌道を維持する態勢を整えている。

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