エヌビディアは2024年11月20日に発表した第3四半期決算で、売上高351億ドル(前年同期比94%増)、第4四半期ガイダンス375億ドルという驚異的な業績を記録し、ウォール街の予想を全ての指標で上回りました。しかし、株価は決算発表後に乱高下し、最終的に約1.5%下落して引けました。この反応は重要な緊張関係を示しています:AIインフラ構築が引き続き堅調であることが確認された一方で、成長率は3桁から減速しており、時価総額4.6兆ドルという評価額には失望の余地がほとんどありません。
決算ハイライト
財務実績
- 第3四半期売上高: 350.82億ドル(前年同期比94%増、コンセンサス予想331.6億ドルを5.8%上回る)
- データセンター売上: 308億ドル(前年同期比112%増、総売上の87.8%を占める)
- 非GAAP EPS: 0.81ドル(予想0.75ドル、8%の上振れ)
- 純利益: 200億ドル(前年同期比2倍)
- 第4四半期ガイダンス: 375億ドル(±2%)、コンセンサス370.8億ドルを上回る
主要ポイント
- BlackwellチップとRubinチップの受注が5000億ドル超(2026年まで延長)
- 粗利益率は74.6%(前四半期の75.1%から若干圧縮)
- 2大顧客が第2四半期売上の39%を占める(それぞれ23%と16%)
市場への影響分析
1. 株価反応と期待値の高さ
エヌビディア株は、全ての指標で予想を上回り、ガイダンスを引き上げたにもかかわらず、決算発表後の取引で著しい変動性を示しました:
- 時間外取引: 初期反応で2-5%上昇
- 翌日終値: 約1.5%下落
- オプション市場: ±6.9%の変動を織り込み(約3200億ドルの時価総額変動に相当)
この控えめな反応は、「驚異的なパフォーマンス」が既にベースライン期待値となっていることを示しています。ピーター・ティールのファンドやソフトバンクなど、著名投資家が決算前に総額58.3億ドルのポジションを解消していたことも注目に値します。
2. 半導体セクターへの波及効果
勝者
- TSMC(台湾積体電路製造): 3%近く上昇、2024年年初来+83%
- ASML: 4%超上昇、先端製造装置の独占的供給者
- 東京エレクトロン: 5.67-7%上昇
- アドバンテスト: 3.8-5.4%上昇
- Arista Networks: 年初来+88%(2024年)
競合状況
- AMD: MI300X GPUで一定のシェア獲得(11-12%市場シェア)
- Intel: ファウンドリ事業で116億ドルの損失、戦略的不確実性に直面
3. ハイパースケーラーの大規模投資継続
大手テック企業の資本支出コミットメント:
- 集合的な支出: 2024年に3800億ドル超
- Microsoft: 大幅な設備投資予測引き上げ
- Amazon: 2025年に約1250億ドル(1180億ドルから増加)
- Alphabet: 910-930億ドル(従来の750-850億ドルレンジから引き上げ)
- 2026年予測: 6000億ドルに達する見込み
日本市場への影響
劇的な反転
日本の株式市場は特に劇的な反応を示しました:
- 決算前(11月19日): 日経225が3.22%急落(7ヶ月で最大の下落)
- 決算後(11月20日): 日経225が3.7%急騰し50,343.25円(10月6日以来最大の上昇)
主要な日本企業の動き
- 東京エレクトロン: 5.67-7%上昇、日経の486ポイント上昇のうち134ポイントに貢献
- ソフトバンクグループ: 9.1%急騰(エヌビディア株を全て売却していたにもかかわらず)
- アドバンテスト: 世界シェア80%のチップテスト装置メーカー、3.8-5.4%上昇
- ディスコ: 精密切断・研削装置、8%上昇
- ルネサスエレクトロニクス: 4.8%上昇
- レーザーテック、イビデン: それぞれ5.6-6.3%、7%超上昇
構造的課題
- 日経の2024年上昇分の**53%**をわずか4社が占める(米国の「マグニフィセント・セブン」と同様の集中)
- 外国人投資家が取引高の約**70%**を占めるが、保有比率は30%のみ
- 円相場155-157円/ドル付近で推移、輸出企業には追い風
アナリストの見解とリスク要因
目標株価引き上げ
- Loop Capital: 250-350ドル(最高値)
- Melius Research: 320ドル
- Wedbush: 230ドル(210ドルから引き上げ)
- Goldman Sachs: 210ドル(200ドルから)
- コンセンサス平均: 235-243ドル(2024年11月水準から19-34%の上昇余地)
主要リスク
- 顧客集中リスク
- 上位2顧客が売上の39%
- 6顧客で売上の約85%
- ハイパースケーラー依存度が50%超
- バリュエーションリスク
- PER 51-67倍(実績ベース)
- PER 27-44倍(予想ベース)
- 「完璧な価格付け」により下振れ余地大
- 地政学的リスク
- 中国向けH20チップ売上がQ3で5000万ドルのみ
- 輸出規制により約90億ドルの機会損失
- 競争激化
- AMDがOpenAIとの数十億ドル規模の契約獲得
- ハイパースケーラーの自社チップ開発(Google TPU、Amazon Trainium等)
今後の見通しと投資戦略
市場機会
- TAM拡大: 2025年602.3億ドル→2034年4993.3億ドル(CAGR 26.6%)
- 2030年までに2兆ドル市場(コンピュートとネットワーキング合計)
- AIインフラサイクル: 8-10年サイクルの4年目に突入
投資ポジショニング推奨
成長志向投資家向け
- 複数年の投資期間とボラティリティ耐性がある場合、エクスポージャー維持・増加を検討
- アナリストコンセンサスは220-240ドルへの20-30%超の上昇を示唆
- ポートフォリオの5-8%を超える集中は避ける
バリュー・インカム投資家向け
- PER 51-67倍、配当利回り0.05%未満では慎重姿勢推奨
- 代替アプローチ:
- AMD(予想PER 27.6倍)
- TSMC(より安定したビジネスモデル)
- 半導体ETF(SMH: NVDA比率20-22%、SOXX: 6.7-9%)
地理的分散
- 日本の半導体製造装置メーカー(東京エレクトロン、アドバンテスト)
- 欧州エクスポージャー(ASML: EUV露光装置の独占供給)
モニタリングポイント
- ハイパースケーラーの設備投資ガイダンス
- 支出疲労や優先順位変更の兆候を注視
- AMDの市場シェア進捗
- 競争圧力の先行指標として監視
- 粗利益率の推移
- 73%を下回る持続的な圧縮は価格圧力を示唆
- 顧客集中度指標
- 上位顧客からの売上比率増加は依存度深化とリスク上昇を示す
結論
エヌビディアの第3四半期決算は、AIインフラ構築が引き続き堅調であることを確認しましたが、市場は既に高い期待値を織り込んでおり、今後はより慎重な評価が必要です。
主要な投資判断ポイント:
- AIインフラ投資サイクルはまだ中盤(8-10年サイクルの3-4年目)
- 成長率は減速しているが、依然として強力な需要が継続
- バリュエーションリスクと顧客集中リスクが主要な懸念事項
- S&P500の8%を占める集中度は、市場全体へのシステミックリスクを創出
今後12-18ヶ月は、AI革命が数兆ドルの投資を正当化する生産性向上と収益成長を実現できるか、それとも市場が現実を数年先取りしてしまい、ファンダメンタルズが期待に追いつくまでの痛みを伴う再評価期間が必要かを試す重要な期間となるでしょう。
投資家は、魅力的な成長ストーリーと集中・バリュエーションリスクのバランスを取る洗練されたポジショニングが求められます。エヌビディアの物語は単一企業の四半期業績を超えて、現代史上最も集中した市場リーダーシップが持続可能かどうかという、より広範な市場構造の問題を提起しています。
免責事項:本分析は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスを構成するものではありません。投資判断を行う前に、必ず独自の調査を行い、金融専門家にご相談ください。