2024年10月の衆院選で議席を4倍に増やし、2025年7月の参院選でも17議席を獲得した国民民主党の玉木雄一郎代表。少数与党政権の「キャスティングボート」を握る同党が、日本の経済・エネルギー・市場政策に与える影響は極めて大きい。玉木氏が首相に就任した場合、約21兆円規模の大型減税、原発新増設の加速、金融緩和継続による円安進行が予想され、株式市場には短期的な追い風となる一方、財政持続性への懸念から中長期的には市場の警戒感が高まる可能性がある。
現実的な首相就任シナリオと確率評価
政治状況の劇的変化が生み出した可能性
2025年10月時点で、日本政治は1955年の自民党結成以来の危機的状況にある。自民・公明連立は2024年10月の衆院選で過半数233議席を18議席下回り、2025年10月には公明党が連立を離脱。自民党は衆参両院で単独過半数を失い、党史上初めて両院で過半数を持たない状態に陥った。
この混乱の中、衆院28議席を持つ国民民主党が事実上の決定権を握る。野党第一党の立憲民主党(148議席)は10月8日、玉木氏を統一野党の首相候補として正式提案した。数学的には、立憲+国民+維新(33議席)が結束すれば過半数を形成できる。
3つのシナリオと実現可能性
シナリオ1:統一野党政権(確率15-20%) – 立憲、国民、維新が玉木氏を首相候補として団結するシナリオ。東大名誉教授の川人貞史氏は「野党勢力が結束して候補者を選べば、政権交代を意味する」と指摘。ただし玉木氏本人が「憲法、安全保障、エネルギー政策で根本的に異なる意見」を理由に10月10日に提案を拒否しており、実現は困難。
シナリオ2:拡大連立政権への参加(確率25-30%) – 自民党が国民民主党に大幅譲歩し、連立政権に迎え入れるシナリオ。ただし玉木氏は「公明党なしの自民党との連立はしない」と明言し、ガソリン税廃止などの政策実現を前提条件としている。政策重複が多く、アナリストは「現実的な選択肢」と評価するも、国民民主党は正式な連立参加を避け続けている。
シナリオ3:政治危機の長期化(確率40-50%) – 2026-2028年にかけて政治的膠着が続き、さらなる選挙で国民民主党が50議席以上に勢力を拡大した後、連立政権を主導するシナリオ。最も実現可能性が高く、専門家は「2028-2030年頃に玉木首相誕生の可能性」と分析。
政治アナリストのジェフリー・J・ホール氏は「立憲と維新も彼に投票すれば、数学的に首相就任は可能」と述べつつも、短期的実現は困難との見方を示す。現状では「影響力ある立役者」として政策譲歩を引き出す戦略が最適解となっている。
国民民主党の経済政策:年21兆円の大型減税プログラム
「令和の所得倍増計画」の全貌
国民民主党の経済政策は、ジャネット・イエレン元FRB議長の「高圧経済」理論に基づく、戦後最大級の需要刺激策である。玉木氏は2021年のブログで「頭の中でモヤモヤしていたものが晴れた」とイエレン氏の演説に言及し、需要が供給を上回る状態を意図的に作り出す政策を推進している。
核心となる3つの柱は、①消費拡大(減税+社会保険料削減)、②投資拡大(成長産業への税優遇)、③賃金増加(介護・保育等の賃金倍増)。2035年までに名目GDP1000兆円(現在約590兆円から70%増)、税収120兆円(現在約70兆円)を目指す。
減税政策の詳細と財政インパクト
所得税改革(コスト年7-8兆円) – 基礎控除を103万円から178万円に引き上げ。これは1995年以降の最低賃金1.73倍上昇に連動させた設計。財務省試算では7-8兆円の税収減だが、国民民主党は消費拡大による税収増で相殺できると主張。内閣府モデルでは7.6兆円の減税がGDPを0.27%押し上げるが、財政悪化は1.20%に達すると警告している。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「成長が減税の財源になるという歴史的根拠は乏しい」と批判的だ。
消費税引き下げ(コスト年12兆円) – 当初10%/8%から一律5%への引き下げを公約したが、2025年選挙後は「実質賃金が持続的にプラスになるまで」と条件付きに軟化。実現すれば年12兆円の税収減。IMFは2024年の対日審査で「目的を絞らない大規模な財政刺激策は不要」と警告し、財政健全化を促している。
ガソリン税廃止(コスト年1.5兆円) – 1974年から50年間続く暫定税率(25.1円/L)を廃止し、ガソリン税への消費税課税(いわゆる「二重課税」)も撤廃。給油価格が約25-28円/L下がり、物流・運送業界への恩恵は大きい。2024年12月11日に自民・公明と基本合意済みで、実施時期が焦点。
その他の税制改革 – 暗号資産への課税を最高55%から20%の分離課税に変更(Web3.0産業育成)、30歳以下の若年層への所得税軽減、子ども控除の復活、教育費控除の拡充など。成長産業(AI、半導体、電池、Web3.0、宇宙、ロボット、製薬)への投資減税も計画。
金融政策:日銀正常化への抵抗
国民民主党は日銀の金融政策正常化に明確に反対している。2024年3月の17年ぶり利上げ(マイナス金利→0-0.1%)、7月の追加利上げ(→0.25%)、12月の利上げ(→0.5%予想)すべてに反対を表明。古川禎久税調会長は「BOJが予算審議を脱線させるほど急激に政策を変えることはない」と述べ、政治圧力を正当化している。
元日銀審議委員の木内氏は「緩和的政策維持を支持する野党の影響力拡大が、追加利上げの遅延可能性を高める」と警告。日銀独立性への政治介入との批判もあるが、国民民主党は「脆弱な賃金上昇回復が頓挫する前に引き締めは時期尚早」と主張する。
日銀バランスシート(対GDP比で主要国最大)の処理も提案。保有国債の一部を永久債に転換して償還負担を軽減、ETF・REIT(約37兆円)を段階的に売却して財源に充てる構想だ。
財政政策:5兆円の「教育国債」と防衛費の革新的ファイナンス
年5兆円規模の「教育国債」発行により、3歳からの無償教育、給食費・修学旅行費の無償化、学生ローン返済免除(教員・自衛官は全額)を実現。研究開発費も倍増させる。財務省は反発するも、国民民主党は「人的資本への投資は長期的リターンを生む」と正当化。
防衛費増額(GDP2%、2027年まで43兆円)は支持するが、増税による財源調達には反対。外貨準備特別会計の活用、ドル建て装備品の購入、永久債転換の収益を財源とする革新的アプローチを提案している。
エネルギー・社会保障・労働政策の転換
原子力政策:新増設への明確な転換
国民民主党のエネルギー政策は**「原発の再稼働、リプレース(建て替え)、新規建設」を明確に支持**する点で、自民党より積極的だ。エネルギー自給率50%を目標に、小型モジュール炉(SMR)や核融合開発も推進。玉木氏は「ウクライナ侵攻後にエネルギー安全保障の重要性を再認識し、政策を転換した」と説明している。
電力総連(東京電力、関西電力等の労組)の支持基盤を持つ国民民主党にとって、原発推進は労組の雇用確保とも直結。再エネ賦課金の廃止も提案し、電気料金引き下げを約束する。自民党が公明党(反原発的)との連立で慎重姿勢を取るのに対し、国民民主党は制約なく推進できる点が特徴だ。
社会保障改革:世代間負担の大胆な見直し
後期高齢者医療の自己負担増 – 75歳以上を一律10%負担から、資産・所得に応じて20-30%に引き上げ。金融資産も考慮する画期的な提案で、現役世代の社会保険料負担を軽減。公明党(創価学会の高齢者基盤)が強く反対する政策だが、国民民主党は「年齢ではなく能力に応じた負担」を主張。
「こども・子育て支援金」の廃止 – 医療保険に上乗せされる新たな負担金を廃止し、教育国債で財源を賄う。累進性の高い国債発行が、逆進的な社会保険料より公平との論理。東京財団の小黒一正氏は「普遍的減税は高所得者に有利で、若年・低所得支援という理念と矛盾」と批判している。
労働市場改革:賃上げの10カ条
国民民主党の労働政策は、連合(特にUAゼンセン150万人、自動車総連、電機連合)の強力な支持基盤に支えられている。核心は介護・看護・保育職の賃金10年で倍増計画で、施設ではなく労働者に直接支給し、地域の生活費調整も行う。
「103万円の壁」解消(→178万円)により、パート労働者が労働時間を増やせる環境を整備。帝国データバンクの調査では、89.7%の企業が基礎控除引き上げを支持している。ただし東京財団の小黒氏は「103万円の壁は神話に近く、実際の障壁は社会保険料(106万円、130万円)や企業手当」と指摘し、政策効果に懐疑的だ。
「可処分時間確保法」により、育児・介護・リスキリングの時間を法的に保障。カスタマーハラスメント防止法も検討し、サービス業従事者を保護する。
株式市場への影響:セクター別分析
2024年10月選挙時の市場反応が示す方向性
2024年10月27日の選挙直後、日経平均は一時2.7%下落したが、翌28日には1.82%反発し38,605円で終了。円は153.28円まで3カ月ぶり安値を更新(0.64%安)。この急速なリバウンドの背景は、弱体化した政権が日銀利上げを遅らせ、拡張的財政政策を余儀なくされるとの市場の期待だった。
JPモルガン・プライベートバンクは「弱い政権はゲームチェンジングな政策を通せず、即座の市場反応は、BOJの利上げに必要な政治的支援が減り、今後の利上げが緩慢になることを投資家が好感したことを示唆」と分析。短期的には株式に追い風だが、「アドホックな野党との合意を通じて立法を実現する少数与党政権は、経済成長促進や国内消費回復に集中できない」と中期的懸念も指摘している。
金融セクター:利上げ遅延と財政悪化のジレンマ
玉木氏は「BOJは2025年3月前に利上げすべきでなく、名目賃金上昇4%を確認してから」と明言。政治圧力により利上げが遅延すれば、地銀は収益機会を逃し、メガバンクの正常化シナリオも後退する。一方で財政悪化(債務GDP比240-260%、G7最悪)が進めば、国債利払い費が急増。財務省試算では2025年度の10.5兆円から2034年度に25.8兆円へ膨張する。
ASEAN+3マクロ経済研究事務局(AMRO)は「銀行システム全体は健全で、資産品質、十分な資本バッファ、堅調な収益性に支えられている」と評価するも、「より強力な財政健全化が必要」と警告。経済学者の坂井才介氏は、控除額を過度に引き上げれば「トラス危機」(2022年英国の財政パニック)のリスクがあると指摘している。
製造業・輸出企業:円安メリットと貿易戦争リスク
円安進行(153円台)は自動車・電機などの輸出企業に追い風。2024年8月のTOPIX急落(3日間で20%)は円高と連動しており、円安は株高要因となる。半導体輸出も技術サイクル上昇で急増中。ただしトランプ政権による25%自動車関税の脅威は深刻で、対米輸出(GDP比17%)への依存が重しとなる。
国民民主党の国内生産重視・経済安全保障政策は、国内製造業への優遇税制(半導体、AI、電池分野)を含み、製造業セクターには中長期でポジティブ。ただし円安が160円に迫れば日銀介入リスクも高まり、輸出メリットは限定的になる。
エネルギーセクター:原発関連銘柄の最大受益者
国民民主党の原発推進政策は、エネルギーセクターに最も明確なポジティブ材料だ。東京電力、関西電力、中部電力、九州電力などの電力株、三菱重工業、日立製作所、東芝など原子力関連メーカー、燃料サイクル関連企業が恩恵を受ける。
再稼働の加速に加え、新規建設・リプレースが現実化すれば、数兆円規模の長期投資需要が生まれる。SMR開発も視野に入れば、先端技術関連銘柄(IHI、日本製鋼所等)にも波及。再エネ賦課金廃止は電力コスト減少を通じ、製造業全般の業績改善要因となる。
ゴールドマン・サックスは「日本の超低インフレリスクは後退した」と評価し、2025-2026年の成長率がユーロ圏を上回ると予測。エネルギー安定供給がこの見通しの前提だ。
小売・消費セクター:可処分所得増加の直接的恩恵
所得税控除引き上げ(103万→178万円)とガソリン税廃止は、消費者の可処分所得を直接増やす。年収200万円の単身世帯で約15-20万円の負担減、4人家族で30-40万円規模の可処分所得増が見込まれる。小売、外食、レジャー、旅行セクターには追い風だ。
2024年6月に実質賃金が約2年ぶりにプラス転換したが、コアCPI(生鮮食品除く)は12月に3.0%と目標を上回り、生活実感は厳しい。国民民主党政策が実現すれば消費マインド改善が期待されるが、野村総研は「減税分の大半が貯蓄に回り、消費刺激効果は限定的(GDPで0.27%)」と冷ややかだ。
小型株・中型株は大型株より遅れているが、東証の「PBR1倍割れ解消」改革の恩恵を受ける余地が大きい。国民民主党のSME(中小企業)支援策、事業承継税制、価格転嫁の強化は、小型株セクターに有利に働く。
テクノロジー・暗号資産:Web3戦略の先駆者
暗号資産への課税を55%から20%の分離課税に変更する提案は、自民党より踏み込んでおり、Web3.0スタートアップやフィンテック企業に大きなインパクトを与える。海外流出していた暗号資産関連人材・企業の国内回帰が期待され、コインチェック、ビットフライヤー、DeCurret等の取引所、関連ブロックチェーン企業が受益する。
AI、半導体、6G、量子技術、ドローン等の戦略産業への投資減税も計画。経済安全保障の観点から国内半導体生産を支援する姿勢は、東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREEN、信越化学等の半導体関連銘柄にポジティブだ。
外国人投資家の視点:日本プレミアムの変動要因
2024年の外国人投資家の動きは不安定だった。第1-2四半期は104億ドル・254億ドルの純流入だったが、第3四半期は円キャリートレード巻き戻しで450億ドルの純流出。2025年上半期は8354億円の純流入に回復した。
ラッセル・インベストメンツのアレックス・カズリー氏は「中長期的には、企業改革、ROE重視、設備投資増加といった要素が依然として非常に心強い」と評価。アストリス・アドバイザリー・ジャパンのニール・ニューマン氏も「弱い政権が何もしなくても、アベノミクスの基礎効果(コーポレートガバナンス改革含む)が残るなら、株式市場には良いこと」と述べる。
一方、ピクテ・アセット・マネジメントの田中淳平氏は「対ドルで円売り圧力があるものの、『日本売り』の側面もあり、円安の日本株へのポジティブ効果は限定的」と警告。政治不安定性、財政持続性懸念、政策実行力の欠如がリスクプレミアムを押し上げる可能性がある。
JPモルガンは日米金利差縮小により段階的な円高を予想するも、政治的不確実性がボラティリティを生むと指摘。ヘッジ戦略として通貨先物、円連動ETFの活用を推奨している。
他党との政策比較:際立つポジショニング
対自民党:より積極的な減税と原発推進
国民民主党は自民党より財政拡張的だ。所得税控除で自民党提案の123万円に対し178万円、消費税で自民党の現状維持に対し5%への引き下げを主張(後に軟化)。原発政策では、自民党が公明党への配慮から慎重な新増設論に対し、国民民主党は明確に新規建設を支持。金融政策でも、自民党が日銀独立性を建前とするのに対し、国民民主党は公然と緩和継続を要求する。
ただし憲法改正、防衛力強化、日米同盟強化では政策が重複し、経済面で協力余地が大きい。実際、2024年12月の三党合意(自民・公明・国民)で所得税控除とガソリン税で部分的妥協が成立している。
対立憲民主党:2020年分裂の根本的相違
国民民主党と立憲民主党の決定的な違いは、①原子力政策(国民は推進、立憲は段階的廃止)、②憲法改正(国民は容認、立憲は反対)、③安全保障(国民は集団的自衛権容認、立憲は制限的)、④経済哲学(国民は供給側減税、立憲は富の再分配)だ。
2020年9月の分裂時、玉木氏は「消費税引き下げへのコミットメント不足」を主要理由に挙げた。立憲が日本共産党、社民党、れいわ新選組との「左派野党連合」形成に向かう中、国民民主党は「改革中道」として独自路線を選択した。
連合(日本労働組合総連合会)という共通の支持基盤を持つが、国民民主党は民間労組(UAゼンセン、自動車総連、電機連合、電力総連)、立憲民主党は官公労(自治労、日教組、郵政労組)が主体で、利益が異なる。この労組基盤の違いが、原発政策(電力労組の国民民主党は推進)、経済政策(民間労組は企業成長重視)の差を生んでいる。
対日本維新の会:改革志向は共通も地盤・手法が異なる
維新の会と国民民主党は、憲法改正支持、経済改革志向、既得権益批判で共通するが、地理的基盤が全く異なる。維新は大阪・関西中心(大阪維新の会が母体)、国民民主党は労組ネットワークを持つ全国政党。維新が道州制・地方分権を柱とするのに対し、国民民主党は中央政府の財政政策を重視する。
エネルギー政策でも、国民民主党が明確な原発推進なのに対し、維新は実用主義的で明確な立場を取らない。両党とも若年・都市部の改革派有権者を狙うが、棲み分けができている。
実現可能性と市場への示唆
短期(6カ月):部分的政策実現で限定的影響
玉木氏が短期的に首相就任する確率は15-20%と低いが、キングメーカーとしての影響力は既に現れている。2025年4月施行の税制改正で所得税控除が160万円に引き上げられ(当初123万円提案から妥協)、ガソリン税廃止も合意済み(実施時期未定)。
この段階では株式市場への影響は軽微からポジティブ。消費刺激による内需株(小売、外食、レジャー)への小幅プラス、日銀利上げ遅延期待による輸出株(自動車、電機)への支援が見込まれる。ただし財政悪化懸念は限定的で、国債市場は安定を維持する。
中期(1-2年):連立参加で政策加速、財政懸念も浮上
2026-2027年にかけて政治危機が深まり、国民民主党が連立政権に参加するか、選挙でさらに議席を伸ばすシナリオ(確率25-35%)では、政策実現度が高まる。所得税控除の178万円への引き上げ、消費税の部分的減税、原発再稼働・新規建設の加速が進む。
この段階で市場反応は二極化する。①国内消費・原発関連銘柄は大幅上昇(小売+5-10%、電力+10-15%、原発関連+15-20%)、②一方で国債市場は財政持続性懸念から30年債利回りが上昇(3.3%超)、③円は一時的に155-158円まで下落後、BOJ介入懸念で反発、④外国人投資家は短期的には買い越すも、財政リスクプレミアムを要求。
野村総研の木内氏やIMFが警告する「トラス危機」(2022年英国で大規模減税発表後に国債・通貨が急落)リスクが意識され始める。ただし日本は経常黒字国(GDP比4.8%、30.4兆円)で対外純資産3.6兆ドルを持つため、危機は回避できる可能性が高い。
長期(2028年以降):玉木首相実現で構造的政策転換
2028-2030年に玉木首相が実現するシナリオ(確率15-25%)では、日本経済の構造的転換が起きる。21兆円規模の減税パッケージ(所得税7-8兆円+消費税12兆円+ガソリン税1.5兆円)が実施され、原発20基以上の再稼働と新規5-10基の建設が計画され、「高圧経済」政策で名目GDP1000兆円を目指す。
市場への影響は劇的だが不確実性も最大となる。楽観シナリオでは、消費拡大→企業収益増→賃金上昇→税収増の好循環が成立し、日経平均は45,000-50,000円へ上昇。特に内需・エネルギー・テクノロジーセクターが牽引する。悲観シナリオでは、財政規律喪失→国債格下げ→金利急騰→円急落→日銀緊急介入→株式急落という「トラス危機」が再現され、日経平均30,000円割れもありうる。
ゴールドマン・サックス・リサーチは日本の2025-2026年成長率がユーロ圏を上回ると予測し、企業ガバナンス改革の継続も評価している。一方、ASEAN+3マクロ経済研究事務局は財政赤字のGDP比3.6%への拡大(2023年度2.9%から)と公的債務240.6%を問題視し、「より強力な財政健全化が必要」と警告している。
政策実現の鍵を握る5つの変数
玉木首相シナリオの実現と政策インパクトは、以下の変数に依存する:
①自民党の安定度 – 高市早苗新総裁の少数与党政権が2025年を乗り切れるか。不信任案可決や解散総選挙があれば、国民民主党の交渉力がさらに高まる。
②選挙での連続成功 – 2024年衆院選(7→28議席)、2025年参院選(17議席獲得)に続き、2026-2028年で50-80議席に達すれば、連立の主導権を握れる。ただし玉木氏の不倫スキャンダル(2024年11月、3カ月間代表停止)や「女性蔑視」発言(2025年6月)が今後の支持率に影響する。
③経済環境 – インフレ・賃金停滞が続けば減税公約への支持は強まるが、米国関税25%(2025年8月実施予定)による景気後退リスクも存在。米政権の対日政策も重要な外部変数だ。
④野党連携 – 立憲民主党との政策協調が進むか、維新の会との保守連合が形成されるか。10月8日の立憲による玉木首相候補提案を玉木氏が拒否したことで、短期的な野党統一は困難となった。
⑤三党合意の履行 – 2024年12月の自民・公明・国民の合意(所得税控除、ガソリン税)が実際に実施されれば、国民民主党への信頼が高まり、さらなる政策実現への道が開ける。玉木氏は「合意が実現しなければ、不信任案への機運が急速に高まる」と牽制している。
結論:不確実性の中の戦略的機会
玉木雄一郎首相誕生は、短期的には低確率(15-20%)だが、日本政治史上最大級の不安定期において、中期的(1-2年)には25-35%、長期的(3-5年)には累積で40-50%の可能性がある。既に「影の首相」として政策に強い影響を与えており、2025年4月税制改正や補正予算(13.9兆円)への関与が実績だ。
株式市場への影響は短期ポジティブ、中期混合、長期不確実というパターンを示す。消費刺激・原発推進・金融緩和継続は、内需・エネルギー・輸出セクターに追い風だが、21兆円減税の財政持続性への懸念は国債・円への下押し圧力となる。投資家は「成長が税収を生む」という国民民主党の前提と、「歴史的にこの前提は成立しない」というIMF・野村総研の警告との間で、判断を迫られる。
セクター戦略としては、①電力・原発関連(東京電力、関西電力、三菱重工業、日立製作所)は明確な買い、②小売・消費(イオン、セブン&アイ、ファーストリテイリング、JR各社)は減税効果で選好、③輸出・製造(トヨタ、ソニー、パナソニック、村田製作所)は円安と投資減税で支援、④金融は利上げ遅延で短期的に圧迫されるが中期的には正常化メリット、⑤国債・円は財政懸念でショートバイアスとなる。
最大のリスクは「トラス危機」型の市場パニックだが、日本の巨額対外純資産と経常黒字がバッファーとなる。最大の機会は、30年続いたデフレマインドが「高圧経済」により最終的に打破され、名目成長率が構造的に上昇することだ。国民民主党の経済実験は、日本株にとって「変革のカタリスト」か「財政危機の引き金」か—その答えは、今後2-3年の政治力学と経済データが決定する。