2025年10月中旬に予定される次期臨時国会での首班指名選挙は、26年ぶりの自公連立解消と衆参両院での与党過半数割れという戦後最大級の政治的混乱の中で実施される。市場は高市早苗自民党総裁の誕生に2,175円の急騰で反応したが、公明党の連立離脱により政治的不確実性が高まり、株価は調整局面に入っている。首班指名が成立するかどうか、そして成立後の政権基盤の脆弱性が、今後の市場を大きく左右する。
臨時国会の召集日程と政治的背景
次期臨時国会の召集は当初10月15日が予定されていたが、公明党との連立協議決裂により遅れる可能性が高い。現在、10月17日または10月20日の週への延期が検討されている。召集日の初日に首班指名選挙を実施し、同日中に新内閣が発足する流れとなるが、過去30年で2回目となる決選投票に突入する可能性も十分にある。
2024年10月27日の衆議院選挙で自民党は191議席(公示前247議席から56議席減)にとどまり、公明党の24議席を合わせても215議席と、過半数233議席に18議席不足した。その後、無所属議員6名が自民党に入党し、自民会派は197議席となったが、単独過半数には37議席不足している。2025年7月20日の参議院選挙でも自民党は39議席(改選)にとどまり、与党合計で約122議席と参議院でも過半数125議席に届かず、完全な「ねじれ国会」状態に陥った。
この結果を受けて石破茂首相(当時)は退陣を表明し、2025年10月4日の自民党総裁選で高市早苗氏(64歳)が新総裁に選出された。しかし、高市総裁と公明党の斉藤鉄夫代表との連立協議は、政治資金問題と靖国神社参拝問題を巡って決裂。10月10日に公明党が連立離脱を表明し、「首班指名選挙では高市早苗とは書けない。斉藤鉄夫に投票する」と明言した。これにより1999年以来26年間続いた自公連立体制が事実上解消された。
現在の政治状況と議席配分
衆議院(定数465、過半数233)の現在の議席配分は、自民党会派196、公明党24、立憲民主党148、日本維新の会35、国民民主党27、その他野党35となっている。自民党単独では過半数に37議席不足し、旧与党(自民+公明)でも過半数に13議席不足している。参議院(定数248、過半数125)でも与党は約122議席と過半数に届かず、衆参両院で与党が過半数割れという戦後まれに見る事態となっている。
この状況下で、国民民主党の玉木雄一郎代表がキャスティングボートを握る存在として浮上している。玉木氏は「首相を務める覚悟はある」とSNSで3回表明しており、立憲民主党は玉木氏を野党統一候補として擁立する案を提示している。理論上、立憲148+維新35+国民27+公明24+小政党で約234議席となり、過半数を超える可能性がある。しかし、立憲と国民民主の安全保障政策には大きな隔たりがあり、維新も野党統一に消極的なため、野党統一候補の実現可能性は不透明だ。
一方、自民党は国民民主党との連立拡大を模索しているが、両党を合わせても223議席(196+27)と過半数に10議席不足する。玉木代表は「基本政策の一致なしに連立は組まない」と慎重姿勢を示しており、特に「年収の壁(103万円の壁)」撤廃とガソリン税暫定税率廃止を看板政策として掲げている。自民党がこれらの政策を受け入れるかどうかが、連立協議の焦点となる。
首班指名選挙当日のプロセス詳細
首班指名選挙は憲法67条1項により「他のすべての案件に先立って」実施される。臨時国会初日、衆議院議長・参議院議長の選出と会期決定の後、午前中から正午頃に首班指名選挙が開始される見込みだ。
投票は単記記名投票で、衆議院と参議院が各々独立して同時並行で実施する。通常の法律案のような「先議・後議」の概念はない。議員は議席番号順に点呼され、壇上で被選人氏名と投票者本人氏名を記載した投票用紙を投票箱に入れる。衆議院では時計回り、参議院では反時計回りに投票が進行する。参議院議長は慣例により投票せず、その他の議長・副議長は投票する。
投票終了後、参事が開票・集計を実施し、通常1~2時間程度で結果が発表される。衆議院では事務総長が結果を報告し議長が指名を宣言、参議院では議長自らが結果報告と指名宣言を行う。投票総数の過半数を得た議員がいない場合、上位2名による決選投票が実施される(衆議院規則第18条第3項、参議院規則第20条第3項)。決選投票では相対多数で足り、過半数は不要となる。
2025年の首班指名選挙では、自民党196議席が最大会派であるものの過半数に遠く及ばず、1回目の投票で過半数到達者が出ない可能性が極めて高い。その場合、決選投票となる。決選投票で高市氏が勝利するには、維新や国民民主が棄権または白票を投じる必要がある。過去の1979年「四十日抗争」では、決選投票で252票が無効票(白票)となり、大平正芳首相が138票対121票で勝利した事例がある。
衆議院と参議院で異なる結果が出た場合、参議院は必ず両院協議会を求めなければならない(国会法第86条2項)。各議院から10名ずつの協議委員が選出され、出席委員の3分の2以上の多数で成案を得る。しかし過去の事例では成案が得られた例はほぼなく、最終的に憲法67条2項の「衆議院の優越」により衆議院の議決が国会の議決となる。
首班指名後、通常は当日夕方から夜にかけて皇居で親任式と認証式が行われる。天皇陛下が内閣総理大臣を任命(親任式)し、国務大臣の任命を認証(認証式)する。親任式により正式に内閣総理大臣が就任し、その後、首相官邸で初閣議、閣僚記念撮影と続く。首班指名から親任式までは通常、当日中の数時間以内に完了する。
2025年首班指名選挙の当日シミュレーション
午前9時:臨時国会召集
- 参議院・衆議院の本会議場に議員が登院
- 市場は寄り付き前から神経質な動き。日経先物は前日比-100円程度で推移
- 為替市場でドル円は149円台後半、やや円高方向
午前10時:衆議院議長・参議院議長の選出
- 予想通り自民党から衆議院議長、野党から副議長を選出
- 特に市場への影響なし
午前10時30分:会期決定
- 会期は4日間程度の短期集中型を決定
- 市場は首班指名の結果を待つ展開
午前11時:首班指名選挙開始(衆参同時)
- 衆議院本会議場と参議院本会議場で同時に投票開始
- 投票中は市場への影響限定的、日経平均は小幅続落で47,300円近辺
午後0時30分:衆議院の開票結果発表
- 1回目投票結果:
- 高市早苗:196票(自民党会派)
- 玉木雄一郎:27票(国民民主党)
- 野田佳彦:148票(立憲民主党)
- 斉藤鉄夫:24票(公明党)
- 馬場伸幸:35票(日本維新の会)
- その他・無効票:35票
- 過半数233票に達した議員なし、決選投票実施へ
- 市場は決選投票の行方を注視、日経平均は47,100円まで下落
午後0時45分:参議院の開票結果発表
- 衆議院とほぼ同様の結果、自民党が最多だが過半数なし
- 参議院でも決選投票へ
午後1時30分:決選投票開始(上位2名:高市早苗 vs 野田佳彦)
- 国民民主党と維新の会の動向が焦点
- 投票中、市場は大きく動かず様子見
午後2時30分:決選投票結果発表(シナリオA:高市氏勝利)
- 決選投票結果:
- 高市早苗:223票(自民196+国民27)
- 野田佳彦:148票(立憲のみ)
- 無効票:94票(維新35、公明24、その他35が棄権・白票)
- 国民民主党が自民党に協力し、高市氏が当選
- 市場は急反発、日経平均は一時+800円の48,100円まで上昇
- ドル円は150円台回復
午後3時:株式市場終了
- 日経平均は前日比+650円の47,950円で引け
- 防衛関連株(三菱重工、IHI)、核融合関連株が急騰
- 銀行株も上昇、「サナエノミクス」への期待が市場を支配
午後5時:親任式・認証式(皇居)
- 高市早苗氏が第104代内閣総理大臣に就任
- 国務大臣の任命も完了
午後7時:初閣議・記者会見
- 高市首相が「大規模経済対策の早期実施」を表明
- 補正予算規模は20兆円超を示唆
翌日以降の市場反応
- 2日目:日経平均+1,200円の49,150円(史上最高値更新)
- 3日目:+500円の49,650円(連日最高値更新)
- 1週間後:調整局面入り、48,500円前後で推移
- 1ヶ月後:経済対策の具体化を待つ展開、47,000~49,000円のレンジ
決選投票の別シナリオと市場への影響
シナリオB:野党統一で玉木氏勝利(可能性10%)
決選投票で立憲+維新+国民+公明が結集した場合、玉木雄一郎氏が首相に選出される可能性がある。この場合の市場反応は以下の通り:
- 即日反応:日経平均-1,500円から-2,000円の急落(45,500~46,000円)
- 理由:政策の不透明性、連立の不安定性、外交・安保政策への懸念
- 為替:ドル円は145円台まで円高進行
- セクター影響:
- 防衛関連株:-10~-15%の急落
- 金融株:-5~-8%下落
- 再生可能エネルギー:+5~+10%上昇(政策転換期待)
- 内需株:限定的影響
- 1週間後:下落一服、46,000~47,000円でレンジ形成
- 1ヶ月後:新政権の政策を見極める展開、具体策次第で方向性が決まる
シナリオC:首班指名不成立(可能性5%未満)
極めて稀だが、決選投票でも明確な勝者が出ない場合(同数など):
- 即日反応:日経平均-2,500円超の暴落(45,000円割れの可能性)
- 為替:ドル円は一時140円台までの急激な円高
- 理由:政治空白への懸念、政治的混乱の極大化
- 対応:国会は再度の首班指名選挙を実施、または衆議院解散の可能性
過去の首班指名選挙と株価への影響
過去の首班指名選挙では、政権の安定性と政策期待が株価に大きく影響してきた。最も顕著な事例は2012年の第二次安倍政権で、首班指名前の11月9日から2013年5月22日までの約半年間で日経平均は78.4%(6,869円)上昇し、17週連続高を記録した。アベノミクス(大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略)への期待が市場を支配し、在任期間全体では132.9%(2.33倍)の上昇を記録した。
対照的に、2009年の鳩山政権(民主党への政権交代)では、政権誕生後6ヶ月で-4.2%下落した。ただし、これはリーマンショック後の世界的金融危機の影響が大きく、政権交代そのものの影響は限定的だったとされる。2021年の岸田政権では、金融所得課税強化への警戒から「岸田ショック」と呼ばれる急落(-10.2%)が発生したが、政策修正後は回復に転じた。
**2024年9月の石破政権では「石破ショック」**が発生し、総裁選出の翌営業日に日経平均は-1,900円、先物は-2,000円以上下落した。緊縮財政懸念、金融所得課税強化、日銀利上げ容認といった政策への警戒が原因で、ドル円も148円から142円台へ5円超の急激な円高となった。石破政権の支持率は28%と2000年以降最低を記録し、その後の衆院選で過半数割れとなった。
2025年10月の高市政権では「高市トレード」が爆発した。総裁選出の翌営業日10月6日(月)に日経平均は+2,175円の47,944円まで急騰し、一時+2,400円近く、48,000円台を突破した。その後も連日最高値を更新し、10月8日には48,580円の史上最高値を記録した。積極財政・金融緩和継続期待とサプライズ勝利による空売り踏み上げが要因で、ドル円も150円台で推移した。
過去17回の解散・総選挙(1969年以降)ですべて日経平均は上昇しており、「選挙は買い」のアノマリーは実在する。ただし、効果は短期間(数週間から数ヶ月)に限定され、長期的には経済のファンダメンタルズと金融政策が株価を支配する。与党獲得議席数と株価の相関が極めて高く、与党議席比率60%以上の場合は平均+10%超の上昇、55%未満では平均-2%程度となる。
決選投票となった過去の事例では、1994年の村山富市首相(社会党)は政権誕生後6ヶ月で-7.2%下落した。自社さ連立という予想外の政治再編に市場は戸惑い、政策の不透明性が懸念された。2024年11月の石破首相は30年ぶりの決選投票で選出されたが、政権基盤の弱さが株価の重石となり、短命政権に終わった。
今回の首班指名選挙が市場に与える影響分析
2025年10月の首班指名選挙は、戦後最大級の政治的不確実性の中で実施される。26年ぶりの自公連立解消、衆参両院での与党過半数割れ、31年ぶりの決選投票の可能性という三重の不確実性が市場を揺さぶる。
短期的(1~2週間)には、首班指名の成否が最大の焦点となる。高市氏が首班指名された場合、市場は+500円から+1,000円の上昇で反応する可能性が高い。積極財政継続への期待、金融緩和維持による円安メリット、「高市銘柄」(核融合、宇宙、防衛、サイバーセキュリティ)への資金流入が想定される。ただし、日経平均48,000円台は過去最高値圏であり、予想PER約18倍は過去10年で最高水準に接近しているため、過熱感からの調整リスクには注意が必要だ。
一方、野党統一候補が勝利した場合、市場は-1,500円から-2,000円の急落が予想される。政策の不透明性、連立の不安定性、外交・安全保障政策への懸念が売り材料となる。特に防衛関連株は-10~-15%の急落、金融株も-5~-8%下落する可能性がある。為替市場ではドル円が145円台まで円高進行し、輸出関連企業の業績懸念が高まる。
中期的(3~6ヶ月)には、少数与党政権の政策実行力が最大の焦点となる。高市首相が誕生しても、衆議院で自民196議席と過半数に37議席不足しており、野党の協力なしには予算案・法案の成立が困難だ。2025年度補正予算の規模縮小、経済対策の遅れ、政策のポピュリズム化(消費税減税など)が懸念される。
野村證券は「サナエノミクス」を反映して日経平均予想を大幅上方修正し、2025年末49,000円、2026年末52,000円、2027年末55,000円としている。大規模財政刺激策実現の可能性とEPS予想6%引き上げが理由だ。大和証券グループの荻野明彦社長も「日経平均5万円超も視野」と強気の見方を示している。
一方、第一生命経済研究所の嶌峰義清氏は「与党議席比率と株価の相関が非常に高い」と指摘し、石破内閣の低支持率28%を懸念材料として挙げている。少数与党政権の政策実行力への疑問、政権短命化リスク、再解散の可能性が市場の重石となる可能性がある。
セクター別では、防衛・安全保障関連株が最も高市政権の恩恵を受ける。三菱重工業は石破政権から高市政権への移行で+9.0%、IHIは+17.4%、川崎重工業は+12.7%上昇した。高市氏が重点政策として掲げる核融合・エネルギー関連、宇宙ビジネス関連、サイバーセキュリティ関連も注目される。金融株は金融緩和継続で一時調整も、長期金利上昇と景気回復期待で上昇する見込み。輸出関連株(自動車・電機)は150円台の円安でメリットを享受するが、トランプ関税リスクには注意が必要だ。
為替市場では、高市政権でドル円150円台が定着する可能性が高い。日銀利上げ先送り観測、積極財政による財政懸念、少数与党で日銀が利上げしにくい環境が円安要因となる。ただし、150円超えは日銀介入リスクがあり、政治不安定化は円高要因にもなり得る。2024年9月の石破政権では148円から142円台へ5円超の円高となった事例があり、為替の変動リスクは無視できない。
市場アナリストと専門家の見解
野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔氏は、「高市新総裁誕生で積極財政期待が高まり、一時的な高市トレードを超えてEPS増を伴う株高に発展する可能性がある」と指摘している。同社は2025年末日経平均予想を42,000円から49,000円へ7,000円引き上げ、2026年末は44,000円から52,000円へ8,000円引き上げた。TOPIX予想も2025年末を3,000から3,300へ上方修正し、大規模財政刺激策実現への期待を反映している。
大和証券グループの荻野明彦社長は、「先行き不安でも成長可能」として日経平均5万円超も視野に入れている。AI時代の技術革新と日本企業の収益改善を評価し、政治リスクは一時的な調整要因にすぎないとの見方だ。SBI証券は2025年末予想を42,500円(PER17倍想定)としており、予想EPS2,500円が視野に入るとしている。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩氏は、「解散・総選挙で日経平均は全て上昇(1969年以降17回)」という歴史的データを重視しつつ、「株高の期間は比較的短い」と指摘している。首相交代と株価に明確な法則性はなく、長期的には経済・金融環境が支配的だとの見解だ。
第一生命経済研究所の嶌峰義清氏は、「選挙後の株価は与党勝利が好パフォーマンス」と述べ、与党議席比率と株価の相関が非常に高いことを強調している。石破内閣の低支持率28%は懸念材料で、少数与党政権の政策実行力への疑問が市場の重石となる可能性を指摘している。
市場コンセンサスとしては、高市政権誕生で短期的には株高が期待されるが、中長期的には政権の安定性と政策実行力が鍵となる。公明党の連立離脱により政治的不確実性が高まっており、今後の連立協議の行方が市場の方向性を決める重要な要因だ。野党との大連立が実現すれば政策実行力への懸念が和らぐが、連立交渉が難航すれば政治リスクが再燃する。
外国人投資家は過去の選挙前7週間で平均3兆円買い越しており、日本株への投資スタンスは継続的に強気だ。コーポレートガバナンス改革評価、米中対立下の資金避難先、企業業績の堅調さが買い材料となっている。一方、個人投資家は「高市トレード」で先物売り建てが大損失を被る事例も出ており、予想外の展開に翻弄される傾向がある。
投資家が注目すべき重要ポイント
首班指名選挙を前に、投資家は以下の点に注目すべきだ。
第一に、高市氏の首班指名成否(10月中旬予定)が最大の焦点となる。公明党離脱後の連携協議動向、国民民主党やその他野党の動きを注視する必要がある。指名に失敗すれば大幅調整リスクがあり、日経平均は-2,000円超の下落もあり得る。決選投票での国民民主党と維新の会の投票行動が結果を左右する。
第二に、株価の過熱感調整に注意が必要だ。予想PER18倍は過去10年で最高水準であり、一時的な利益確定売りが発生する可能性がある。ただし、調整は押し目買いの機会となる可能性が高く、中長期的には日本企業の収益改善、コーポレートガバナンス改革、外国人投資家の継続的な買いという構造的な追い風が継続している。
第三に、「高市銘柄」の選別が重要となる。核融合、宇宙、防衛、サイバーセキュリティといったテーマ株は高市政権で注目されるが、実態を伴わない銘柄は調整リスクがある。業績の裏付けがある銘柄を選別し、短期的な過熱感には警戒が必要だ。FFRIセキュリティやフィックスターズなど一部銘柄は既に急騰しており、高値掴みのリスクがある。
第四に、経済対策の内容と規模(11月~12月)が中期的な株価を左右する。2025年度補正予算の規模、減税措置の有無、財源確保の方法が焦点だ。野党の協力が得られず補正予算が縮小されれば、株価の失望売りが出る可能性がある。逆に、国民民主党との連携で大規模な経済対策が実現すれば、株価は一段高となる。
第五に、日銀の金融政策(2026年1月会合)のスタンスが重要だ。高市政権では日銀利上げが先送りされる観測が強く、これが円安と株高を支える要因となっている。しかし、少数与党で政治的に利上げしにくい環境が続けば、インフレ懸念や財政懸念が高まり、長期金利上昇のリスクがある。日銀の独立性と政権との関係が市場の注目点だ。
推奨投資戦略としては、アグレッシブ投資家は高市銘柄(核融合、宇宙、防衛)の押し目買い、レバレッジETFでの短期トレードが選択肢となるが、過熱感には十分注意が必要だ。バランス型投資家は大型優良株の積立継続、セクター分散(防衛、金融、内需、輸出のバランス)、調整局面での段階的買い増しが推奨される。保守的投資家は高配当株での安定運用、内需ディフェンシブ株中心、政治リスクが落ち着くまで様子見も選択肢となる。
結論:史上最高値と政治リスクの綱渡り
2025年10月の首班指名選挙は、日本の株式市場にとって短期的には大きな影響を与える政治イベントだが、長期的な株価は経済のファンダメンタルズと金融政策に依存する。高市政権誕生は市場にサプライズをもたらし、史上最高値48,580円を記録したが、公明党の連立離脱により政治的不確実性が高まっている。
首班指名選挙では決選投票に突入する可能性が高く、国民民主党と維新の会の動向が結果を左右する。高市氏が首班に指名されれば、短期的には+500円から+1,000円の上昇が期待されるが、少数与党政権の政策実行力への懸念が中期的な重石となる。野党統一候補が勝利すれば、-1,500円から-2,000円の急落が予想される。
野村證券の49,000円予想、大和証券の5万円超予想など、アナリストの見方は強気が優勢だが、過去最高値圏での過熱感と政治リスクのバランスが重要となる。投資家は首班指名の成否、経済対策の内容、日銀の金融政策スタンス、企業業績の進捗を注視し、短期的な調整は押し目買いの機会と捉えつつ、政治リスクには警戒を怠らない姿勢が求められる。
「選挙は買い」のアノマリーは実在するが、効果は数週間から数ヶ月に限定される。2025年の日本株は、史上最高値と政治的混乱という二つの極端な要素が交錯する中で、投資家の冷静な判断力が試される局面を迎えている。