金価格は2025年10月に史上最高値の4,100ドル超/トロイオンスを記録し、年初から54.94%上昇した。主要金融機関は2026年には4,000ドル、さらに一部は5,000ドルまでの上昇を予測している。日本円建てでは、田中貴金属の小売価格が10月初旬に21,039円/グラムと初めて2万1千円台に到達した。この急騰は、中央銀行による記録的な金購入(年間1,000トン超が3年連続)、米連邦準備制度の利下げサイクル、地政学的緊張の高まり、そして円安による複合効果の結果である。日本の投資家にとって、金は現在23-28%の低い保有率から大きな成長余地があり、インフレヘッジと通貨下落への防衛手段として重要性を増している。
過去5年間の価格推移:記録的な上昇相場
金市場は2020年から2025年にかけて歴史的な強気相場を経験した。2020年8月、新型コロナウイルスパンデミックの最中に2,075ドルで初めて2,000ドルの壁を突破。その後、2021年には約1,800ドル台での調整を経て、2022年3月にロシアのウクライナ侵攻時に再び2,074ドルに到達した。しかし、連邦準備制度による急激な利上げにより、2022年後半には1,650ドル以下まで下落。
2023年は回復の年となり、シリコンバレー銀行の破綻や中東情勢の緊張を受けて12月には2,135ドルの新記録を樹立した。しかし、真の転換点は2024年だった。この年、金価格は27%上昇し、複数回の史上最高値を更新。3月に2,220ドル、5月に2,450ドル、7月に2,483ドル、そして10月には2,790ドルに達した。中央銀行による1,044.6トンの購入(3年連続で1,000トン超)と利下げ期待が主な要因だった。
2025年は記録破りの年となった。1月の2,623.91ドルから始まり、3月には関税懸念で3,000ドルを突破。4月には「解放の日」関税で3,500.20ドルに急騰し、10月13日時点で4,117.03ドルの史上最高値を記録した。年初来で32.57-54.94%の上昇を記録し、39回もの史上最高値更新を達成した。
円建て価格の劇的な上昇
日本の投資家にとって、状況はさらに劇的だった。円安がドル建て金価格の上昇を増幅したためである。田中貴金属の小売価格は、2024年9月に初めて2万円/グラムを超え、2025年10月6日には21,039円/グラムという記録的水準に到達した。トロイオンス換算では10月3日に572,603円の高値を記録。
為替レートの影響は顕著だ。2020年から2024年にかけて、USD/JPYは約103円から157.90円へと53%も円安が進行した。この結果、ドル建てで金価格が2倍になる間、円建て価格は約2.8倍に膨らんだ。2025年には円がやや強含み(157.87円から152.16円)したものの、ドル建て金価格の爆発的上昇により、円建て価格も年初来で38.70%上昇した。
金価格を動かす7つの主要要因
中央銀行の戦略的購入が構造的支援を提供
最も重要な価格支持要因は、世界の中央銀行による記録的な金購入である。2022年には1,082トン、2023年には1,037トン、2024年には1,044トンと、3年連続で1,000トンを超える購入が続いた。これは2010-2021年の年平均473トンと比較して2倍以上の水準だ。
2025年第1四半期には244トンが購入され、5年平均を25%上回った。最大の買い手はポーランド(2024年に90トン、2025年半ばまでに67トン)、インド(73トン)、中国、トルコ(75トン)である。特に中国は公式報告を再開したが、ロンドン貴金属市場を通じた秘密購入も継続しており、外貨準備に占める金の比率はわずか5.36%と、先進国平均を大きく下回っている。
ワールドゴールドカウンシルの2025年調査では、記録的な73の中央銀行が参加し、43%が今後金保有を増やす意向を示した(前年の29%から大幅増加)。76%が今後5年間で金が総準備資産に占める割合が中程度から大幅に増加すると予想し、73%が米ドル準備の割合が減少すると見込んでいる。ゴールドマン・サックスは、この構造的シフトが「さらに3年間継続する」と予測している。
米連邦準備制度の利下げサイクルが追い風
2025年9月、FRBは25ベーシスポイントの利下げを実施し、年内にさらに50ベーシスポイントの利下げが見込まれている。これにより、金利は現在の4.25-4.50%から段階的に低下する見通しだ。低金利環境は、利息を生まない金にとって追い風となる。
重要なのは実質金利である。米国のCPIが2.9%で推移する中、政策金利が4.25%では実質金利がプラスだが、FRBが利下げを続ければ実質金利は低下し、金の保有コストが相対的に減少する。バンク・オブ・アメリカの分析によれば、FRBがインフレ率が2%目標を上回る中で緩和政策を取る場合、金価格は下落したことがない。
日本銀行も政策転換の真っ只中にある。2024年3月にマイナス金利政策を終了し、その後3回の利上げを実施して現在の政策金利は0.50%となった。しかし、コアCPIが3.4%で推移する中、実質金利は依然としてマイナスであり、これは金にとって好ましい環境だ。市場は2025年末までに日銀が1%まで利上げすると予想しているが、段階的なアプローチが見込まれる。
地政学的リスクが史上最高水準に
CPMグループは、現在の世界的リスク環境を「1941年12月以来最高」と評している。ロシア・ウクライナ紛争の長期化、中東の緊張、米中貿易摩擦、そしてトランプ政権の関税政策による不確実性が、金の安全資産需要を高めている。
地政学的リスク指数(GPR)が大幅に上昇している中、主要な地政学的リスク事象の際には金価格が平均で週次1.6%のリターンを記録している。ワールドゴールドカウンシルによれば、リスクと不確実性要因は2025年上半期の金価格上昇の約4%に寄与し、貿易関連リスクは約16%に寄与した。
米国の関税政策(カナダとメキシコに25%、スイスの金地金に39%)と貿易保護主義は、2025年を通じて金価格の上昇を後押ししてきた。JPモルガンは「政治的不確実性の増大が2025年と2026年を通じた継続的な回復を助けている」と指摘している。
インフレ懸念が持続的な支援を提供
米国のCPIは2025年8月時点で2.9%とFRBの目標2%を上回っており、関税の影響でインフレ期待は高止まりしている。市場は、下半期に関税の影響が本格化すれば、CPIが世界的に5%を超える可能性があると予想している。
金は伝統的なインフレヘッジとして機能し、バンク・オブ・アメリカの分析では「インフレ緩和」期(インフレは高いが、FRBが積極的に対応していない時期)に年率約13%のリターンを記録している。現在の環境は、まさにこのパターンに合致している。
ドル安懸念と基軸通貨としての地位への疑問
2025年、米ドルは1973年以来最悪のスタートを切り、年初から10%以上下落した。FRBの利下げ、貿易政策への懸念、そして「米国例外主義」への疑問がドルの信頼性を揺るがしている。
興味深いことに、2024-2025年には金とドルが同時に上昇するという異例の動きが見られた。これは、両方が安全資産と見なされていること、中央銀行の多様化が為替動向にかかわらず金への需要を提供していること、そして市場が実質金利やシステミックリスクをドルの動き以上に重視していることを示している。
世界の外貨準備に占めるドルの割合は2024年末時点で57.8%に低下し、前年から0.62ポイント減少した。この「脱ドル化」トレンドは、特にロシアに対する2022年の制裁以降、新興市場中央銀行の間で加速している。
需給バランス:限られた供給と堅調な投資需要
供給面では、2025年の世界の金生産量は約3,694トン(前年比1%増)と予想され、成長は限定的だ。第2四半期には記録的な909トンが生産されたが、採掘コストは平均987ドル/オンス(2024年)と高止まりしており、新規プロジェクト開発の制約となっている。リサイクル金も記録的な価格にもかかわらず低迷している。
需要面では明暗が分かれている。宝飾品需要は価格高騰により大幅に減少し、2025年第2四半期は341トン(前年比14%減)と2020年のパンデミック時に近い水準まで落ち込んだ。中国(2024年に479トン、前年比24%減)とインド(563.5トン)の2大市場でも、高価格が消費者を圧迫している。
しかし、この弱さは投資需要の強さで相殺されている。地金・コイン投資は2025年上半期に631トンと2013年以来最強の上半期を記録した。特に中国では、弱い通貨と株式市場を背景に、富裕層による資産保全需要が旺盛だ。テクノロジー需要も、AI関連半導体の成長により堅調に推移している(2025年第2四半期79トン)。
ETFフロー:歴史的な資金流入の転換
最も劇的な変化は、金ETFへの資金流入の回復である。2020年11月から2024年5月まで930トンの純流出が続いていたが、2024年に流れが変わった。
2025年は記録的なETF流入を記録している。第1四半期には226トン(210億ドル)、第2四半期には171トン(260億ドル)、そして第3四半期には記録的な260億ドルが流入した。9月単月の流入は史上最大となった。2025年9月末時点でETFの保有量は3,838トンに達し、2020年11月のピーク3,929トンまであと2%に迫っている。
地域別では、北米が最大の牽引役となり、第3四半期だけで161億ドルが流入した。米国のファンド(GLD、IAU、GLDM、SGOL)が2025年上半期の流入の88%を占めている。欧州も第3四半期に82億ドルと史上2番目に強い四半期を記録し、英国、スイス、ドイツが需要を牽引した。
アジアでは、日本が7ヶ月連続で流入を記録(4月まで)し、インフレ懸念と円安が需要を支えている。中国も年初は流入が続いたが、8月には株式市場の好調(CSI300が10%上昇)により一部の資金が株式に流れた。
2025-2027年の価格予測:主要金融機関の見解
最も強気な予測:ゴールドマン・サックス
ゴールドマン・サックスは最も楽観的な見通しを提示している。2025年末に3,700ドル/オンス(当初の3,100ドルから上方修正)、2026年半ばに4,000ドル、そして2026年12月には4,900ドルに達すると予測している。さらに、FRBの独立性に懸念が生じたり、米国債市場から1%の資金が金に流入したりすれば、5,000ドル超も視野に入るとしている。
同社の予測は、中央銀行が2025年に月間80トン、2026年に月間70トンの購入を継続し、FRBの利下げがETF需要を押し上げるという前提に基づいている。新興市場の中央銀行が依然として金を「大幅に保有不足」であることも、構造的な需要要因として挙げている。
JPモルガン:段階的な上昇を予想
JPモルガンは、2025年第4四半期の平均価格を3,675ドル/オンス、2026年第2四半期には4,000ドルに達すると予測している。同社は、中央銀行による年間900トンの購入が継続し、投資家と中央銀行を合わせた需要が四半期あたり710トンの純増となると見込んでいる。
JPモルガンは、金が「スタグフレーション、リセッション、通貨価値下落リスクの独特な組み合わせに対する最も最適なヘッジの一つ」であると強調し、「リスクは予測の早期超過に傾いている」と述べている。
バンク・オブ・アメリカ:5,000ドルのピークシナリオ
バンク・オブ・アメリカは非常に強気で、2026年の平均を3,350ドルから4,400ドルに上方修正し、ピークでは5,000ドルに達する可能性を示唆している。2027年は3,500ドルと予測している。
同社の強気見通しは、2026年の投資需要が14%成長し、中央銀行が金準備の比率を現在の10%から30%超に引き上げる可能性があるという分析に基づいている。また、投資需要が10%増加すれば、2年以内に金価格は3,500ドルに到達すると計算している。
UBS、ドイツ銀行、コメルツ銀行の見解
UBSは2025年末に3,800ドル、2026年半ばに3,900ドル、長期的には4,200ドルを目標としている。中央銀行の購入が1,000トンに達し、ETFの純買いが450トンに増加すると予想している。
ドイツ銀行は2026年の平均を4,000ドルに上方修正し(当初の3,700ドルから)、第4四半期には4,300ドルに達すると予測している。公的セクターの金需要が10年平均の2倍で推移し、リサイクル金の供給が予想を4%下回っていることを指摘している。
コメルツ銀行は、2025年末に3,600ドル、2026年末には3,800-4,200ドルのレンジを予想している。FRBが2025年の残り期間に75ベーシスポイント、2026年に125ベーシスポイントの利下げを実施するという前提に基づいている。
LBMA年次貴金属予測調査の結果
ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の年次調査では、2025年1月時点で30人のアナリストが平均2,735.33ドルを予測していた。しかし、実際の価格がこれを大幅に上回ったため、7月の中間見直しでは13人のアナリストが予測を15.49%引き上げ、新たな平均は3,159ドルとなった。年末予測は3,324.40ドル、レンジは3,200-4,000ドルとなっている。
コンセンサス予測のまとめ
2025年末のコンセンサス:3,500-3,800ドル/オンス
- 最低予測:3,100ドル(ゴールドマン・サックスのベースケース)
- 最高予測:3,800ドル(ANZ、UBS)
- 中央値:約3,600ドル
2026年のコンセンサス:3,800-4,300ドル/オンス
- 最低予測:2,450ドル(モルガン・スタンレー、より保守的)
- 最高予測:5,000ドル(バンク・オブ・アメリカのピーク)、4,900ドル(ゴールドマン・サックス)
- 中央値:約4,000ドル
2027年の限定的な予測:3,500-3,600ドル/オンス
- HSBC:3,600ドル
- バンク・オブ・アメリカ:3,500ドル
- 長期予測では2027-2028年に4,500-5,000ドルの可能性も
日本の投資家向け:円建て価格と投資戦略
円建て価格の見通し
円建ての金価格は、ドル建て金価格とUSD/JPY為替レートの2つの要因に左右される。主要機関の為替予測は、2025年末で145-165円のレンジとなっている。
2025年第4四半期の予想レンジ:
- ドル建て金価格:3,675-3,800ドル/オンス
- USD/JPY:145-165円
- 円建て価格:約60万-80万円/トロイオンス(19,300-25,700円/グラム)
2026年半ばの予想レンジ:
- ドル建て金価格:4,000ドル/オンス
- USD/JPY:145-160円
- 円建て価格:約90万円/トロイオンスを超える可能性
重要なのは、円安が円建て金価格を増幅させることだ。例えば、金が3,675ドル/オンスで、USD/JPYが150円なら金価格は55.1万円/オンスだが、165円なら60.6万円/オンスとなる。10%の円安は、ドル建て金価格が横ばいでも円建て価格を10%押し上げる。
日銀政策の影響
日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を終了し、その後3回の利上げで政策金利を0.50%まで引き上げた。市場は2025年末までに1%への利上げを予想している。
金への影響:
- 利上げ(金に対してやや弱気):高金利は金の魅力を減じるが、実質金利が依然としてマイナス(CPI 3.4% vs 政策金利0.5%)であるため、影響は限定的
- 円高の可能性(円建て金価格に対して弱気):政策引き締めは円を強くする可能性があり、円建て金価格を押し下げる
- 債券市場のボラティリティ(金に対して強気):JGB利回りが上昇し、インフレと成長の懸念が交錯する中、金は代替的な分散投資先として機能
ただし、日銀は慎重なアプローチを取ると予想されており、急激な政策転換は避けられる見込みだ。ワールドゴールドカウンシルの分析では、日銀の慎重なスタンスは「インフレが上昇する一方で成長が課題に直面している」ことを意味し、安全資産およびインフレヘッジとしての金にとって支援的な環境となっている。
日本市場の投資機会と課題
ワールドゴールドカウンシルの調査によれば、日本の投資家のわずか23-28%しか金を保有していない。これは大きな成長余地を示している。2025年第1四半期時点で、日本の家計金融資産は**2,195兆円(約15兆ドル)**に達しており、その潜在力は膨大だ。
金保有者の中でも、典型的な配分は**ポートフォリオの1-10%**に過ぎない。資産2,000万円以上の富裕層では36%が金を保有しているが、全体では23%にとどまっている。
日本の投資家が金を購入する主な理由:
- 歴史的な価値維持(51-53%)
- 危機時のパフォーマンス(35-41%)
- インフレヘッジ・保護(37-53%)
- ポートフォリオの多様化(34-36%)
- 長期的な良好なリターンの可能性(32-37%)
投資の障壁:
- 知識不足(11%が始め方がわからない)
- 現在の高価格(手頃感の懸念)
- 購入・売却の難しさの認識
- 金製品と利点に関する低い認知度
日本における金投資手段
1. 金ETF(最も人気)
日本には複数の金ETFが上場しており、新NISA制度で非課税投資が可能だ。
- 三菱UFJ純金上場信託(1540):現物金裏付け、1グラムあたりの金価格に連動
- NEXT FUNDS 金価格連動型ETF(1328):先物ベース、野村アセットマネジメント運用
- iシェアーズ ゴールドETF:ブラックロック運用、現物金裏付け
- SPDR ゴールド・シェア(1326):世界最大級の金ETFの一つ
メリット:流動性が高く、少額から投資可能、新NISA対象、売買が簡単 経費率:年0.4-0.7%程度
2. 金積立プラン
田中貴金属などが提供する月次自動購入プランで、ドルコスト平均法により価格変動リスクを軽減できる。少額から始められ、積立後に現物の引き出しも可能。
3. 現物金
金地金(1kgから1グラムまで)や金貨(ウィーン金貨、メイプルリーフ金貨など)を購入できる。田中貴金属や日本の造幣局などが販売している。
注意点:保管費用、保険、セキュリティの考慮が必要
税務と規制の考慮事項
消費税:金の売買には10%の消費税が適用される。購入時に10%を支払い、売却時に10%を受け取るため、正当な取引では実質的に税中立的。過去に3%、5%、8%の税率で購入した金でも、売却時には現在の10%を受け取れる利点がある。
キャピタルゲイン税:
- 現物金:5年超保有で課税対象利益が50%減額される優遇措置
- 金ETF:一律20.315%の税率(証券と同様)
新NISA制度:
- 取引利益が非課税(通常は20.315%)
- 上限:一人当たり1,800万円
- 期間制限なし
- 特定の金ETFと投資信託が対象
新NISA制度により、金投資の税制優遇が強化され、魅力が増している。
投資戦略とリスク管理
新規投資家向けの推奨事項
ステップ1:ETFから始める 新NISA口座で金ETF(1540、1328、1326など)を購入することで、低コストかつ流動性の高い金投資が可能。ポートフォリオの**1-10%**を目安に配分する。
ステップ2:ドルコスト平均法を活用 金積立プランを利用して、月次での自動購入により価格変動リスクを軽減。高値掴みのリスクを分散できる。
ステップ3:新NISA制度を最大限活用 年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、生涯1,800万円の非課税枠を活用し、利益を最大化する。
既存保有者向けの戦略
長期保有を基本とする:構造的な要因(中央銀行の購入、地政学的リスク、通貨懸念)は引き続き支援的であり、長期的な上昇トレンドは維持される見込み。
機会主義的なリバランス:大幅な急騰時には一部利益確定を検討し、調整局面では買い増しを検討する。現在の水準(4,000ドル超、2万円/グラム超)は記録的に高いため、一定の調整リスクは念頭に置くべき。
日銀政策を注視:大幅な利上げは円高を招き、円建て金価格に下押し圧力をかける可能性がある。
保有形態を多様化:ETF、現物、金積立プランを組み合わせ、それぞれの利点を活かす。
主要なリスク要因
上昇リスク(さらなる価格高騰):
- 地政学的状況の悪化(台湾海峡、中東、ウクライナ)
- FRBの想定以上の利下げ
- 米国財政状況の悪化、債務懸念の高まり
- 中央銀行の購入ペース加速(年間1,000トン超の継続)
- ドルの大幅下落
下落リスク(価格調整):
- 主要な地政学的緊張の解決(可能性は低い)
- FRBの政策反転(インフレ再燃による利上げ)
- 米国株式市場の大幅上昇(リスクオン相場)
- 中央銀行の購入が予想外に500トンを下回る
- 日銀の急激な引き締め(大幅な円高)
短期的な注意点:
- 第4四半期は季節的に弱い傾向
- 記録的高値からの技術的調整の可能性
- 投機的ポジションの巻き戻しによる一時的な下落
結論:日本の投資家にとっての意味
金市場は2025年に歴史的な転換点を迎えた。中央銀行による構造的な需要、FRBの利下げサイクル、地政学的不確実性の高まり、そして日本国内のインフレと円安懸念が重なり、金は単なる安全資産を超えて、通貨価値下落への保険、そしてポートフォリオの必須要素となりつつある。
主要金融機関のコンセンサスは明確だ。ゴールドマン・サックスの2026年末4,900ドル予測、JPモルガンの4,000ドル予測、バンク・オブ・アメリカの5,000ドルのピークシナリオはいずれも、金の構造的強気相場が継続することを示唆している。円建てでは、為替レートの動向にもよるが、2026年半ばには90万円/トロイオンスを超える水準も視野に入る。
日本の投資家にとって、重要なのは今すぐ大量に購入することではなく、体系的かつ規律あるアプローチで金への配分を増やすことだ。新NISA制度を活用したETF投資、金積立プランによるドルコスト平均法、そして現物金の戦略的な保有を組み合わせることで、リスクを管理しながら金の長期的な上昇ポテンシャルを享受できる。
現在、日本の投資家の23-28%しか金を保有していないという事実は、大きな成長余地を示している。2,195兆円の家計金融資産のうち、わずか1-5%でも金に配分されれば、市場に大きな影響を与える規模だ。歴史的な価値保存手段として、また現代の複雑な経済・地政学環境におけるポートフォリオの安定化要素として、金は日本の投資家にとってこれまで以上に重要な位置を占めている。
今後2-3年間、金市場は高いボラティリティを伴いながらも、構造的な上昇トレンドを維持する可能性が高い。慎重さと長期的視点を持ちながら、この歴史的な強気相場に参加することが、賢明な投資戦略となるだろう。