核融合発電は「夢のエネルギー」と呼ばれながらも、未だ実用化には至っていません。しかし最近、各国で実証炉やデモ炉建設の計画が活発化しています。米国や日本、欧州、中国などでは、2030年代中盤までに実証実験炉を稼働させ、2040~2050年代に商用炉実現というスケジュール感が示されていますprtimes.jpfrontiersin.org。以下、主要なプロジェクトと目標時期を国・地域別にまとめます。
アメリカの主要プロジェクトとスケジュール
- 米国エネルギー省(DOE)「Fusion Energy Strategy 2024」: 「大胆な10年計画」で、2030年代に民間主導の実証炉、2040年代に商用炉稼働を目指すビジョンを提示しているprtimes.jp。
- Commonwealth Fusion Systems (CFS): MIT発ベンチャーが開発中の高温超電導トカマク炉。実証炉「SPARC」を2027年までに稼働させてネットエネルギー増幅(Q>1)を実証し、その技術を基に2030年代前半に400MW級の商用炉「ARC」の運転開始を狙うjetro.go.jp。2024年12月にはバージニア州に400MW級の商用炉建設予定を発表し、2030年代前半の稼働を目標にしているjetro.go.jp。
- Helion Energy: マグネタイズド・ターゲット・フュージョン(MTF)を追求する企業。マイクロソフトとの電力購入契約に基づき、2028年から50MWの商用電力供給を開始する計画を掲げているhelionenergy.com。
- TAE Technologies: アネウテロニック燃料(p-11B)を用いる米国企業。2030年までに商用炉プロトタイプを製造することを目標としておりen.wikipedia.org、既に大規模な先行機「Norman」が稼働中。
- その他: かつて挑戦していたロッキード・マーチンの核融合計画は現在棚上げされているjetro.go.jpが、民間企業による開発競争が活発化しており、巨額の投資が続いている。
日本の主要プロジェクトとスケジュール
- 政府の核融合戦略: 2025年6月、政府は「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、「世界に先駆けた2030年代の実証炉稼働」を明記したnote.com。これにより、従来の長期計画から具体的なデモ期目標への転換が示された。
- JT-60SA: 日本・欧州共同の超伝導トカマク実験装置。2023年末にプラズマ発生に成功し、本格稼働を開始した。ITERや将来のDEMO炉に向けた燃焼プラズマの条件探査を担う大型実験装置であるprtimes.jp。
- FASTプロジェクト: 超伝導を用いた低アスペクト比トカマクによる次世代炉プロジェクト。2030年代に核融合発電の実証を目指して設計・研究を進めており、大型炉に必要な技術検証を行う計画であるfast-pj.com。
- スタートアップ (京都フュージョニアリング等): 京都大学発のベンチャーが2025年に設立した「スターライトエンジン」社などが、日本初のトカマク核融合炉商用化を目指し資金調達を進めている(2025年春に合計105億円の調達実施)note.com。彼らも2030年代の実証・商用化を視野に入れている。
中国の主要プロジェクトとスケジュール
- EAST(実験用超伝導トカマク): 中国「人工太陽」と呼ばれるEASTは2025年1月に100百万度以上のプラズマを1066秒(約17分)連続維持する実験に成功し、世界記録を樹立したnote.com。この成果は商用炉に必要とされる長時間閉じ込めの技術的可能性を大きく示唆している。
- CFETR (中国融合工程実験炉): ITERの次を見据え、2030年代の完成を目指す大型炉計画。設計段階は2015年に完了し、建設は2020年代に開始、2030年代に稼働完了の見込みとされているen.wikipedia.org。第一段階で200MW級のプラズマ稼働とトリチウム自己増殖率1以上を実証し、第二段階で1GW超級の発電を目指す計画であるen.wikipedia.org。中国政府も国家戦略として膨大な資金と人材を投入しており、早期の実証炉建設を進めている。
欧州(EU・英国)の主要プロジェクトとスケジュール
- ITER (国際熱核融合実験炉): EU主導の国際共同プロジェクトで、南フランスに建設中。2025年の初プラズマを目指していたが、最新情報では2030年代初頭に延期見込みとされる(科学誌発表)。ITERでは商用炉に必要な燃焼プラズマの条件を探り、将来のDEMO設計に向けた技術を実証する。
- DEMO(欧州版デモ炉): ITERの後継として欧州連合が計画する次世代炉。EUROfusion計画下で概念設計が進行中で、2050年までに実用的な炉の稼働を目標としているfrontiersin.org。DEMOは発電出力で数百MW級を見込み、まず2035~2040年ごろに建設が始まり、2050年までに運転開始するスケジュールが示されているfrontiersin.org。
- 英国の取り組み: 英国政府は2025年1月にノッティンガムシャーでの核融合原型炉建設に向け、4.1億ポンドの資金支援を表明したprtimes.jp。また英企業Tokamak Energyは高圧球状トカマク方式で実験炉「ST80-HTS」を2026年までに建設・稼働させ、2030年代半ばまでに85MW級の発電パイロットプラントを完成させる計画を公表しているworld-nuclear-news.org。同社は米国DOEの官民連携プログラムにも参画しており、最終的に500MW級の商用炉実現を目指している。
- その他の欧州企業: ドイツのW7-X(ステラレータ)や英国の私企業(First Light Fusion など)も独自方式で研究中だが、商用炉実現時期は未定・長期。欧州全体としては、ITER→DEMO→商用炉というロードマップの下、2040~2050年代の商用化を見込んでいる。
最先端を目指す組織と実現時期
現時点で最も早期の実現を目指しているのは米国の民間企業で、Helion Energyが2028年までに50MW級の商用電力供給を計画しているhelionenergy.com。CFSも2030年代前半の商用炉運転開始を打ち出しており、米国勢は政府と民間が一体となって2030年代の実証・供給開始を目指す姿勢を示しているjetro.go.jphelionenergy.com。これに次いで、英国Tokamak Energyなどは2030年代半ばを目標としており、EUや日本、中国も2030年代中盤に炉技術の実証、2040~2050年代にかけて商用炉実現を想定しているfrontiersin.orgworld-nuclear-news.org。総じて、米国が最も先陣を切る状況だが、各国とも数十年かけた技術開発の中で先を争っている。
技術的・経済的課題
- 材料・構造耐久性:1億度以上の高温プラズマを閉じ込め、高エネルギー中性子に曝される炉内壁やブランケット、超電導マグネットの材料が極めて過酷な環境にさらされる。こうした極限環境に耐える新材料の開発が必須であり、実験炉でも部分的に課題となっているnote.com。
- 連続運転の実現:商用発電所では数時間以上にわたる連続稼働が必要となるが、現在の実験炉では数百秒程度の維持が限界である。プラズマ不安定性の制御や持続的な燃焼プラズマ生成技術の確立が求められている。
- トリチウム燃料サイクル:核融合燃料として三重水素(トリチウム)が必要だが、天然には極めて少量しか存在しない。炉内のリチウムからトリチウムを生成する「燃料ブランケット」の設計・実証が課題であり、自前で必要量を確保する技術開発が必要である。
- 高コスト・資金調達:巨大な超電導磁石や極超低温設備、大型実験施設の建設には数十億ドルの費用がかかると見込まれているjetro.go.jp。現状では各国政府や民間投資家が多額の資金を投入しており、商用化までの資金回収モデルの構築や経済性の確保は未解決である。日本貿易振興機構の報告でも「核融合技術はいまだ実証段階の技術で、商業化は依然としてハードルが高い」と指摘されているjetro.go.jp。
- 安全性・社会受容:チェルノブイリ級の事故リスクは低いと言われるが、高速中性子による放射化材の発生など新たな安全課題が生じる可能性もある。長期的には規制・法制度整備や社会的受容の観点も慎重な対応が必要である。
以上のように、各国とも商用炉実現には技術面・経済面で依然多くの課題を抱えている。現在は実証炉建設や長時間プラズマ実験が盛んに行われており、これらを通じて技術的ブレークスルーが得られるかが今後の鍵となる。各プロジェクトの進捗次第では、2040~2050年代にかけてようやく商用炉が稼働し得る可能性が示唆されているが、いまだ「実験炉レベル」の状況が続いており、実用化時期は不確実性を伴っている。
参考文献: 各国政府・機関の公式発表やJetro・News等報道jetro.go.jpnote.comprtimes.jpworld-nuclear-news.orghelionenergy.comen.wikipedia.orgen.wikipedia.orgfrontiersin.org。