日米関税交渉、もし、安倍晋三氏が交渉していたら?

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①石破政権下での最新の日米関税交渉の実像 を整理したうえで、②もし安倍晋三氏がいま首相だった場合に取り得たであろうシナリオ を対比的に示します。


① 石破茂政権:交渉の現在地

焦点品目石破政権のスタンス米政権の要求・対応進展/停滞の理由
自動車(完成車・部品)25%追加関税の**「完全撤廃」**を最優先。7月9日の猶予期限延長も模索「24%に一本化」で事実上の高関税維持。国内投資や原油/LNG購入拡大を交換条件に提示首脳会談(6/16)でも隔たり大。赤澤亮正交渉担当相が7回目の訪米reuters.com
鉄鋼・アルミ50%上乗せの対日追加関税撤廃を要求“国家安全保障”を理由に撤廃に慎重日鉄‐USスチール買収問題が米労組・議会の反発を招きカード化 jp.reuters.com
農産物・エネルギー農業守勢を掲げつつも、トウモロコシ・LNG等の輸入拡大で対米黒字縮小を提案農産物市場開放とエネルギー輸入拡大を強く要請参院選(7月)前で農家票に配慮し大幅譲歩に踏み切れず停滞 jp.reuters.com
高付加価値分野(半導体・医薬品)米国内新工場や共同研究で「経済安全保障」連携を打診具体的な投資額・雇用創出の確約を求める数字目標で折り合えず、合意は「枠組み」止まり reuters.com

石破流の特徴

  1. 防衛・安全保障カードを積極活用
     – 米製防衛装備品の追加購入や造船・宇宙協力を提示し、関税譲歩を引き出そうとする。reuters.com
  2. 地方重視の農政基盤
     – 農産物関税は「参院選までは譲歩しない」方針で党内保守派と歩調を合わせ、交渉が硬直。jp.reuters.com
  3. トランプ氏との“友好だが距離感”
     – 個人的信頼を築き切れておらず、会談後も「認識はなお一致せず」と自ら明言。reuters.com

結果として、交渉は**“延長戦”**の様相を呈し、追加関税発動を回避できるかは「6月末~7月初旬の再協議」が山場と見込まれています。english.kyodonews.net


② 安倍晋三氏が首相だった場合のカウンターファクチュアル

観点安倍アプローチ(予想)石破アプローチ(現実)期待される違い
トランプとの関係2017-20年に築いた個人的蜜月と“ゴルフ外交”を再活用し、トップ同士で早期妥結を狙う信頼構築は進行中。距離がある首脳同士の裁量で関税凍結・段階的撤廃に道筋
取引材料2019年協定同様、農産物(72億ドル規模)+LNG/武器の抱き合わせを積極提案 bloomberg.co.jp農家票を優先し農産物譲歩を抑制自動車関税撤廃と引き換えに農業譲歩を拡大
マルチ枠組み米国のTPP復帰をてこに「包括パッケージ」の大義を演出IPEF重視、TPP復帰要求は控えめ“TPP復帰カード”で米議会の賛同も取り付ける
交渉スピード“地ならしは官僚、決着はトップ会談”型でサミット前に事務方合意を固める事務方主導→要所で首相が説明する慎重型7月の期限前に一気に落着する可能性が高い
国内政治長期政権・高支持率を背景に痛み分けの農業譲歩でも世論を説得参院選を控え譲歩に慎重農家対策費を上積みしても自動車産業の雇用維持を優先

なぜ違いが出るか

  • 2019年の日米貿易協定で安倍氏は「米国産トウモロコシを緊急購入する」と自ら言及し、トランプ大統領の政治基盤(農家)に直接配慮して信頼を獲得した前例がある。kantei.go.jp
  • 同協定では「日本車の関税最終ゼロ化」に道を開いたことから、自動車業界に譲歩実績を示せる。reuters.com
  • 安倍氏は外交安保での対米一体化を重視し、F-35追加購入やエネルギー調達を“パッケージ”に組み込む構想力が大きい。

総合予想:安倍首相続投シナリオでは、

  • 自動車追加関税は「段階的撤廃ロードマップ付き凍結」で合意
  • 見返りに ①米農産物の追加関税削減/輸入枠拡大②米国向けLNG・アンモニア長期契約③先端半導体共同投資枠の倍増 が盛り込まれ、交渉期限前にパッケージ妥結していた公算が高い。

まとめ

石破政権は「防衛装備購入+関税撤廃」を掲げるものの、農政譲歩をためらい交渉は膠着。一方、安倍氏なら農産物カードを大胆に切り、首脳間パーソナルな関係を最大活用して早期に自動車関税撤廃へ道筋をつける可能性が高かった――というのが歴史に“if”を差し込んだ場合の帰結と言えるでしょう。

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