2025年6月下旬、米国がイランの核施設に対して軍事攻撃を行ったとの報道を受けて、日本の金融市場も大きく反応しました。本報告では、この「米国によるイラン攻撃」が日本の主要な市場セクターに与えた影響について、直近の価格変動(短期的影響)と中期的な見通しの双方を整理します。対象とする市場は以下のとおりです。
株式市場(日経平均株価など)
為替市場(主に円相場、特に対ドル)
原油市場(原油価格の動向と日本への影響)
金市場(安全資産としての金価格の反応)
日本国債(国債利回りの動向、安全資産としての債券需要)
それぞれの市場について、最新の市場データやエコノミストの見解、報道機関の分析を参照し、短期的な価格変動と中期的な影響を報告します。
株式市場への影響
米国のイラン攻撃が報じられると真っ先にリスク回避の動きが強まり、日本の株式市場は下落しました。日経平均株価は一時約0.8%下落し、リスク回避ムードと円高に伴う輸出企業の収益悪化懸念が重荷となりました
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。市場参加者の間では「米国の直接介入が現実となれば株式は knee-jerk(ひざまずくような)売りが出る」との見方が広がり、実際に売り圧力が高まったとされています
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。ただしこの下落は長続きしない可能性も指摘されています。中東危機による株価下落は過去の例では一時的であり、例えば2003年のイラク侵攻や2019年のサウジ石油施設攻撃の際も「当初こそ株価は低迷したものの、数ヶ月後には回復に転じた」ケースが多く見られます
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。実際、過去の中東紛争では紛争開始直後3週間で米株価指数が平均0.3%下落する一方、2ヶ月後には平均2.3%上昇に転じていたとの分析もあります
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。したがって、中期的には紛争が拡大・長期化しない限り、日本株も持ち直す可能性があります。しかし一方で、紛争が世界経済に与える不透明感やエネルギー価格上昇による企業収益圧迫が続けば、投資家のリスク回避姿勢が長引き株価の上値を抑えるリスクも残ります。
為替市場(円相場)への影響
地政学リスクが高まる局面では通常、安全資産とされる円が買われやすいですが、今回の米国によるイラン攻撃を受けた市場の反応は一筋縄ではいきませんでした。短期的には米ドルが「究極の安全通貨」として選好され、円よりもドルが買われる展開となりました
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。実際、攻撃報道後の為替市場ではドル円相場が一時3週間ぶり高値の1ドル=145円台後半までドル高・円安が進行し、安全資産と見なされる円に対してドルが上昇しました
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。市場では「米国の紛争介入により、当初はドルが安全資産として買われる可能性が高い」との指摘があり
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、米国債利回りの低下(債券価格上昇)と同時にドル高が進む典型的なリスクオフの動きが見られた形です
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。もっとも、円も対ユーロや高金利通貨など他通貨に対しては底堅く、安全通貨として一定の買い支えが入りました。また、中期的な視点では紛争の展開次第で円相場の行方は変わり得ます。仮に紛争が激化・長期化し世界景気に悪影響を及ぼす場合、日本からの資金還流やリスク回避の動きで円が対ドルでも上昇(円高)に転じる可能性があります。一方で米国が関与する戦争という性質上、「有事のドル買い」が継続するとの見方もあり、市場の安全資産選好の矛先が「ドル対円」でどちらに向かうかは複雑です
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。加えて、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策(利下げ観測など)や日本銀行の政策スタンスも、インフレ動向次第で為替に影響を及ぼすため、円相場は当面不安定な推移となる可能性があります。
原油市場の動向と日本への影響
原油価格は急騰しました。中東地域の軍事衝突拡大により供給不安が意識され、攻撃前から既に原油相場は上昇基調にありましたが、米国のイラン攻撃でその傾向が一段と強まりました。北海ブレント原油先物価格は6月10日以降に約18%も上昇し、6月19日には1バレル=79.04ドルと5ヶ月ぶり高値を付けました
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。市場関係者は「週明けの市場ではまず原油価格が上昇して始まるだろう」と予想しており
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、実際攻撃直後の取引再開時には原油が急伸し1バレルあたり3~5ドル程度跳ね上がるとの見方が示されていました
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。日本にとって原油高は企業と家計に二重の打撃となります。エネルギー自給率の低い日本では原油価格の上昇がそのまま輸入コスト増につながり、企業収益の悪化や国内物価の押し上げ要因となるためです。実際、エコノミストらは「原油高騰はすでに物価上昇に悩む世界経済に追加の打撃となり、消費者マインドを冷やす。インフレ率上昇により各国中銀の利下げ余地も狭まる恐れがある」と警告しています
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。日本でもエネルギー価格上昇が消費者物価を押し上げ、実質所得を圧迫することで個人消費の冷え込みが懸念されます。そのため原油高は景気下振れ要因となり、日本銀行の金融政策にも影響(追加利上げを見送る、あるいは逆に物価高抑制のため利上げ検討など)を及ぼしかねません。 中期的な原油価格の行方は、紛争の展開シナリオによって大きく異なります。比較的早期に緊張が緩和しイラン産原油の供給が維持されるなら、今回の上昇分は「地政学的リスク・プレミアム」として数週間程度で剥落し、原油価格は安定または反落する可能性があります
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。実際、米攻撃直後には「イランの核開発能力が壊滅し交渉余地を失ったことで、イラン側が和平交渉に動く可能性が高まり、原油価格の急騰は数日中に落ち着くだろう」との見解も聞かれました
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。一方で紛争が拡大し供給障害が現実化する最悪シナリオでは、原油はさらなる高騰が避けられません。専門機関の試算によれば、イランの原油供給が半減したり戦火がホルムズ海峡封鎖に及ぶようなケースでは、原油価格は1バレル=100ドルを超え、最悪130ドル近辺まで急騰する可能性も指摘されています
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。その場合、米国のインフレ率は年末までに6%近くに跳ね上がり、各国中央銀行はインフレ抑制を最優先せざるを得なくなる(景気下支えのための利下げ余地は消滅する)との分析もあります
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。このように原油市場は短期的には大幅な乱高下、そして中期的には紛争の行方次第で大きくシナリオが分かれる状況です。日本にとってはエネルギー安全保障の観点からも注視すべきリスクであり、政府も原油高対策(例えば石油備蓄の放出や産油国への増産要請など)を講じる可能性があります。
金市場(安全資産)への影響
有事の際に「究極の安全資産」として資金流入が起こりやすい金(ゴールド)市場も急騰しました。イスラエルとイランの武力衝突が伝わった段階から金価格は上昇傾向にあり、米国の攻撃が現実化するとその動きが一段と強まりました。現物の金価格(スポット金)は6月13日に1トロイオンス=3437.21ドルと前日比1.6%急騰し、安全資産需要の高まりを示しました
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。金は年初来で約30%も値上がりし、安全通貨とされる円やスイスフランを上回るリターンを記録する「スーパー安全資産」の地位を確立しています
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。日本の投資家にとっても金は有事の避難先として好まれ、攻撃報道後は金関連のETFや純金積立の需要増加も観測されています。短期的には地政学リスクの高まりとともに金価格は上昇基調を維持すると見られ、「戦争懸念が続く限り金相場は堅調」というのが市場のコンセンサスです
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。 中期的には、紛争の行方と各国金融政策が金価格に影響を与える可能性があります。仮に中東情勢が沈静化に向かえば、安全資産買いの巻き戻しで金が利益確定売りに押される局面もあり得ます。しかし同時に、今回の紛争で顕在化したインフレ懸念(原油高等による)に対するヘッジ手段として金の需要が持続する可能性も高いです。特に世界的な物価上昇局面では金は価値保存手段・インフレヘッジとして選好される傾向があるため、仮に中央銀行が利上げでインフレ対応を迫られるような局面でも金価格は底堅さを保つかもしれません。いずれにせよ、足元では金相場は過去最高水準に近く推移しており、日本の投資家にとっても有事の金として引き続き注目されるでしょう。
日本国債(利回り)への影響
リスクオフ局面では「質への逃避」として日本国債の需要が高まるのが常です。今回も例外ではなく、米国のイラン攻撃報道を受けて日本の債券市場では安全資産である国債が買われ、長期金利が低下しました。実際、攻撃の可能性が取り沙汰された6月18日頃の日本市場では、新発10年物国債利回りが一時前日比-0.03%(3ベーシスポイント)低い1.445%に低下する場面がありました bloomberg.co.jp 。これは「米国がイスラエルのイラン攻撃に加わる」との観測が再燃し、投資家のリスク回避姿勢が鮮明になったことによるものです bloomberg.co.jp 。米国市場でも戦争懸念で米国債が買われ利回り低下が起きており reuters.com 、日本国債も同様に世界的な安全資産買いの流れに乗った格好です。短期的には、中東情勢の緊迫化→リスク回避→国債買いという典型的な避難行動が見られました
tradingview.com
。日本銀行が金融緩和継続姿勢を示していることも相まって、国内債券市場は比較的安定を保っています。 中期的な視点では、国債利回りを巡る力学は一方向ではありません。一つには、地政学リスクが高まるほど安全資産として国債が買われやすく、景気悪化懸念から金利低下圧力が継続し得ます。実際、今回の紛争に米国が関与したことで「当面は米国債・日本国債ともに堅調(利回り低下基調)になりやすい」との見方があります
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。しかしもう一つには、原油高によるインフレ圧力というリスクも存在します。仮に原油価格上昇が長引きインフレ率が上昇局面に入れば、債券投資家はインフレによる実質金利低下を嫌気して国債を売り、金利上昇圧力(債券安)が生じる可能性もあります
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。このため国債市場は「安全資産需要による金利低下」と「インフレ懸念による金利上昇」という綱引きの局面に立たされるかもしれません。日本の場合、日銀のイールドカーブコントロール(長期金利誘導)政策も金利動向を左右する重要な要因です。足元では日銀が政策金利据え置きを決定し債券市場の安定に配慮する姿勢を示していることから
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、急激な金利変動は抑えられています。総じて、短期的には日本国債は「安全な逃避先」として買われ利回り低下したものの、中期的にはインフレ動向や政策対応によって金利が再び上昇圧力を受ける展開も否定できない状況です。
おわりに
以上、米国によるイラン攻撃が引き起こした日本の各金融市場への影響を、短期と中期の観点から整理しました。短期的にはすべての市場でリスク回避的な急激な動き(株安・円動揺・原油高・金高・債券高)が見られ、日本の投資家・当局にとって改めて地政学リスクの大きさを認識させる出来事となりました
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。一方、中期的にはその後の紛争の展開次第で各市場の方向感も変化し得るため、予断を許しません。仮に外交的解決や停戦に向かうなら、マーケットは比較的早く正常化し、日本の株式市場も基調を取り戻す可能性があります
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。しかし紛争が拡大長期化しエネルギー供給不安やインフレ高進が現実のものとなれば、日本経済・市場への打撃は大きく、慎重なリスク管理が求められるでしょう
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。今後も中東情勢とそれに伴う市場変動について、最新のデータと専門家の分析を注視していく必要があります。 参考資料・出典:
ロイター通信「アングル:イラン核施設攻撃、原油高騰の可能性 安全資産への資金逃避も」
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(2025年6月22日)
ロイター通信「Investors brace for oil price spike, rush to havens after US bombs Iran nuclear sites」
reuters.com
reuters.com
(2025年6月22日)
ロイター通信(日本語版)「NY市場サマリー(20日)利回り低下、株下落 ドル/円3週ぶり高値」
jp.reuters.com
(2025年6月20日)
ロイター通信(英語版)「US dollar lifted by safe-haven bids as MidEast conflict escalates」
reuters.com
(2025年6月13日)
ロイター通信(英語版)「Investors see quick stock market drop if US joins Israel-Iran conflict」
reuters.com
reuters.com
(2025年6月18日)
Bloomberg「〖日本市況〗金利低下、中東緊迫化でリスク回避」
bloomberg.co.jp
(2025年6月18日)
Reuters (TradingView経由)「Japan 10-Year Yield Falls for Second Straight Session」
tradingview.com
(2025年6月19日)
EBC Financial Group「Nikkei 225 down on US fearmongering」
ebc.com
(2025年6月19日)
EBC Financial Group「Bullion cements its super haven status」
ebc.com
(2025年6月20日)
ロイター通信「Oil to open higher as US strikes on Iran boost supply risk premium」
reuters.com
reuters.com
(2025年6月22日)
ロイター通信「World awaits Iranian response after US hits nuclear sites」
reuters.com
reuters.com
(2025年6月22日)
ロイター通信「Investors brace for oil price spike, rush to havens after US bombs Iran nuclear sites」
reuters.com
reuters.com
(2025年6月22日)
The Business Standard (TBS)「Stocks slide, oil and gold jump after Israel strikes Iran」
energynews.oedigital.com
energynews.oedigital.com
(2025年6月13日)