アメリカから製造拠点が逃げた(オフショアリングが進んだ)理由はいくつかある。
1. 人件費の高さ
アメリカの労働コストは他国と比べて高い。特に中国、メキシコ、東南アジアなどと比較すると、製造業の人件費は数倍~10倍以上違うこともある。そのため、企業はより安い労働力を求めて海外に移転した。
2. 環境規制・労働規制の厳しさ
アメリカでは環境規制や労働規制が厳しく、工場の操業コストが高くなりがち。特にカリフォルニアなどでは環境基準が厳しく、工場建設や運営に莫大なコストがかかる。中国や東南アジアでは規制が緩く、企業にとっては低コストでの運営が可能だった。
3. 企業の短期的な利益志向
アメリカの企業は株主至上主義が強く、四半期ごとの利益を最大化することが求められる。そのため、短期的なコスト削減が優先され、安価な海外製造を選ぶ傾向があった。
4. 貿易の自由化とグローバリゼーション
1990年代~2000年代にかけて、NAFTA(北米自由貿易協定)や中国のWTO加盟などにより、関税が低くなり、海外生産のメリットが増大。結果としてアメリカ国内での生産が減り、製造業の海外移転が加速した。
5. 為替の影響
ドルが強いとアメリカ製品の価格競争力が落ちる。一方、発展途上国の通貨は安いため、現地で生産することでコストを抑えられる。特に90年代~2000年代は中国の人民元が非常に安く、アメリカの企業が製造拠点を移す大きな要因となった。
6. 産業構造の変化
アメリカはサービス業・ハイテク産業へのシフトが進み、製造業の重要性が相対的に低下。製造業が海外に出ても、国内経済に大きな影響を与えにくいと考えられた。
最近の動向(リショアリング)
ただし、近年は逆に「リショアリング(製造業の国内回帰)」の動きもある。
理由は以下の通り:
- 中国リスク(地政学・人件費上昇) → 中国に依存しすぎるリスクが高まり、アメリカに戻す企業が増加。
- 米政府の補助金政策 → CHIPS法やインフレ抑制法(IRA)で国内製造が支援されている。
- AI・自動化の進展 → 労働コストの影響が小さくなり、アメリカ国内でも競争力を維持できるようになった。
つまり、アメリカから製造業が逃げたのは「コスト削減」が最大の理由だったが、今は一部の産業が戻りつつある。